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「そろそろ出来るぞ。食えるか」
「……うん」
彼はダイニングではなく、ソファー前のローテーブルにランチョンマットを敷いて、次々に運んできた。ササミとレタスの回りにパプリカがカラフルに踊る、チキンサラダ。大きい南高梅が中央に埋まる、白粥。シジミがたっぷり入った、白味噌の味噌汁。少しハチミツのかかった、バナナヨーグルト。
どれも小振りの器に、八分の適量で盛られている。食欲なんか、まるでなかったのに、腹がクゥと素直な感謝を告げる。
「――あ」
ククッと笑って、もう一度キッチンへ戻る。彼は自分用にもランチョンマットを敷き、作り上げた4品を並べた。僕の目の前と違うのは、白粥に梅干しが入っていないことくらいだ。
「もしかして、朝食まだだった?」
「ああ」
壁掛け時計は、9:45。彼のマンションからここまで、電車で大体1時間だから、悠長に食べる暇はなかったろう。でも――多分。一緒に食べたかったんじゃないのかな。
「ありがとう」
「いや……冷めない内に食え」
照れ臭そうにボソッと応える。そんな彼が、愛おしい。
「うん」
向かい合って食事する。どんな高級レストランの豪華なフルコースより、ずっとずっと嬉しい。鼻の奥がツンとしたので、慌てて味噌汁をすすった。
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