トマトの神様

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覗き込まれる顔が恥ずかしくて、カーっと熱くなる。 いつもみたいな冷静な自分になれなくて、助けてくれた彼の手をパッと振りほどいた。 「うわっ! 何回もごめんなさい!」 と、一応謝ってみたけど、動揺して可愛げもない態度を取ってしまう自分に心底がっかりしてしまう。 「いいえ、女の人をコケさせた上に、泣かせてしまったのは俺なんで」 「あっ、ううん、違うの 泣いてたのは彼氏に振られたからだから」 さっきとは逆に、今度は私が全力で否定した。 「え?! そうだったっちゃね、元気出してください…なんて、気休めにもならない言葉ですよね、すみません」 素直すぎる、この赤い生物が、なんだかたまらなく愛おしく思えた。 なんて、優しい言葉をくれるんだろう。 「実はね、私、あなたのことたまに見かけてたんだ 。赤い髪が素敵だなーって、会えたらラッキーな一日が過ごせるって、勝手に君のこと、トマトの神様とか、そんな風に思ってたの」 「トマトの神様?! 面白いこといいますね! 実際の俺はそんないいもんじゃないっちゃけど」 少し照れたように、ニッと口角を上げて笑う彼を見て、あぁ、本当にこの人は、トマトの神様かも知れないって思ってしまった。 ところどころ方言が出る喋り方も、薄い唇をキュッと上げる笑い方も、少しタレ目の下にあるホクロも、なんかツボで、今日の不運がなかったことにできてしまいそうな程、幸せな気持ちにさせる笑顔だった。 さっきまであんなにヘコんでたけど、この笑顔を見ていたら、明日も頑張らないと!と不思議と思えてしまった。 実際、明日は仕事に行けないんじゃないかって思っていたけど、トマトの神様のおかげで、少し前向きになれたから不思議だ。
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