7月20日最後の詩 34。

1/1
前へ
/172ページ
次へ

7月20日最後の詩 34。

94ecd50c-dbb6-40f4-896e-43bb6737d765 「兄さん……」  兄は早く行けとばかりに手を振った。奴は飾られた絵を兄だと思い込んだ様だった。厭らしくだらしのない顔つきで絵を抱きしめ「やっと俺のものに」と呟いている。  そのすきに僕は逃げ出した。火が上がったのはそれから間もなくだ。混乱に乗じて姿をくらました。誰も僕の存在に気がつかなかった。  あのまま奴も燃えたのかと思ったがそうではなかったようだ。 「最後に兄はこれからは好きに生きろと言ってくれた。こんな忌まわしいお屋敷に縛られている必要はないと。……ねえ、」  彼は僕を見ると静かに微笑んだ。 「ダメかと思った瞬間、君の顔が浮かんだんだ。美味しそうにパンケーキを頬張った顔……また一緒に食べてくれる?」
/172ページ

最初のコメントを投稿しよう!

43人が本棚に入れています
本棚に追加