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7月20日最後の詩 34。
「兄さん……」
兄は早く行けとばかりに手を振った。奴は飾られた絵を兄だと思い込んだ様だった。厭らしくだらしのない顔つきで絵を抱きしめ「やっと俺のものに」と呟いている。
そのすきに僕は逃げ出した。火が上がったのはそれから間もなくだ。混乱に乗じて姿をくらました。誰も僕の存在に気がつかなかった。
あのまま奴も燃えたのかと思ったがそうではなかったようだ。
「最後に兄はこれからは好きに生きろと言ってくれた。こんな忌まわしいお屋敷に縛られている必要はないと。……ねえ、」
彼は僕を見ると静かに微笑んだ。
「ダメかと思った瞬間、君の顔が浮かんだんだ。美味しそうにパンケーキを頬張った顔……また一緒に食べてくれる?」
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