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7月29日 夏よ終わらないで。
リリンっと自転車の軽やかな鈴の音が鳴った。
「お待たせ~」
ジリジリと焼けつく太陽を背にしょってあいつが手を振る。
これからふたりで冒険にでも行けるようないでたちで、だけど向かうのは塾の夏期講習だ。
「宿題やった?」
「ギリ。さっきやっと終わった」
放り込まれた塾の隣に席にいたのは、しばらく会わなかった幼馴染だった。
久しぶりの会話はぎこちなかったけれど、話せばすぐに元通りの親しさが戻ってくる。
待ち合せて一緒に勉強して、終わったらどこかでお茶をして。
懐かしい時間は一瞬で現実に姿を変えた。
夏がこのままずっと続けばいいのに。
あいつの背中を追いかけながら祈るように願う。
夏よ。どうかまだ終わらないで。
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