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2022.02.11 結婚前夜。
二度とかけないつもりで消した電話番号が画面の中に光っている。
何年たっても覚えている自分に呆れながら、どうするべきか少し迷う。
『……ごめん、突然。俺のことわかる?』
ボタンを押して繋がったあいつの声は記憶の中とおなじまま。封じていた記憶が鮮やかに戻ってくる。
『お前が結婚するって聞いて……なんか、おめでとうって伝えたくて……今大丈夫?』
おめでとうなんて一番言ってほしくなかった、
お前にだけは責めて欲しかった。だけど僕は曖昧に笑いながら「ありがとう」とだけ答えた。
馬鹿みたいだ。もしかして引き止めてくれるかもなんて。
普通じゃない関係が怖くて逃げた僕。願い通りの普通の結婚を目前に、またお前に縋りたいと甘い夢を見て。
(好きだよ)
一度も忘れたことはない。
(まだこんなに好きなのに)
それを口にすることは叶わない。
明日僕は誰かのものになって、お前の知らない人生を歩んでいく。
『幸せになれよ』
2度と繋がらなくても、せめて最後の言葉だけは抱きしめていてもいいかな。
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