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2022/05/21 酷くして
バスルームにキラキラと光の粒が散っていた。温められた水蒸気がまるで宝石のように瞬いている。
「どーした?」
と、肩越しに声をかけられゆるりと首を振る。
「なんでもない」
「そう? じゃあ入ろうか」
さっき出会ったばかりの男が手を伸ばしてシャワーのコックを捻った。暖かな飛沫が素肌を打つ。
今日は親友の結婚式だった。幼稚園から一緒の幼なじみ。いつも2人でいて、他に誰もいらなかったはずなのにあいつは他の女を選んだ。当たり前だ。好きな人ができてその人と一緒になるなんて、掃いて捨てるほどある普通の出来事。
その好きな人が同性で、どうにもできなかった俺の方が少数派なのだ。
「止めるなら今のうちだよ?」
男の手が肩にかかる。あいつとは違う形にゾッとした。
「やめない」
言い切って振り向いた。向かい合う男の肩幅の広さに眩暈がしそうだ。背も高い。力も強そうでいかにも「男」という相手を選んで抱かれる。あいつの初夜は俺にとっても初夜だ。
「いいの? 優しくされたい? それとも手酷く?」
2度とこの日を思い出さないよう、あいつの結婚式を思い出さないように見ず知らずの男に身を任せる。
「酷くして」
言うと頭を強く押さえつけられた。
シャワーの飛沫の下、目の前に男の下半身がある。半分くらい立ち上がりかけた欲望から目を逸らしたくなる。
「咥えて」
髪を掴まれ昂ぶりに押しつけられた。まだ洗浄されていない男の匂いが強く立ち昇る。
「、や」
咄嗟に逃げようとしたのを捕まえられた。
「酷くされたいんでしょ? ほら早く咥えてよ」
「うっ」
唇に艶めかしい男の性器が当たる。口を開くとすぐに潜り込んできた。
「舌も使って気持ちよくしてよ。ああ初めてなんだっけ? じゃあ大人しく咥えてろよ」
ガツガツと腰を動かして男は口の中を蹂躙した。頭が掴まれているので逃げ場がない。喉の奥まで突っ込まれてえずく。
「噛むなよ?」
先端からこぼれた体液が苦い。自然に涙がこぼれ落ちた。
「下手くそめ。出すからな、飲めよ」
言う間もなくびゅくびゅくと口の中が青臭くなった。吐き出しそうになる唇を抑えられて逃してもらえなかった。
座り込んだ身体を起こされて、壁に押し付けられる。お尻を差し出す格好で後ろに指が差し込まれた。
「や、痛っ」
「黙ってろ」
ローションをかけられめり込む指に犯される。
「思い出したくも無いくらい酷く抱いてやる」
「ああっ」
そうだ、これでいいんだ。
この日を2度と思い出さないよう。あいつごと嫌な記憶で葬り去りたい。友達でなんかいられない。誰かを愛するお前なんていらない。
傷ついた粘膜から血が流れた。ミチミチと押し開かれた身体はあいつの知らないものになった。
さよなら、と呟いた。大好きだったよ。
ぼろぼろと溢れる涙は痛みのせい。息ができなくて喘ぐ唇をふさいたのは知らない男のものだった。
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