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第一幕 一話「絶望と希望」
目が覚めると、知らない場所に立っていた。
冬なのかそれとも、もともと寒い地域なのか、はじめに感じたのは寒さだった。
不思議と不安は感じなかった。というのも、明らかな異常事態に感情の機能がダウンしてしまったらしく。心が異常を保ってしまっているというのが、おそらく正しい描写だろう。
改めて周りを見回してみる。
全く知らない場所だ。レンガや石で作られたどことなくノスタルジーを感じるような風景。
日陰から日向へ、そしてまた日向から日陰へ、そんな風にゆったりと徐行する馬車が、この町の平和さを物語っている様だった。
それぞれの建物の前には、そこの住人であろう老若男女が出店のような形で色々な物を大きな声で売っている。果物から肉、衣類や、おそらく戦いに使うであろう刃渡りの長い刃物まで、その品揃えは様々だった。
目の前に広がる大通りに自然と歩を進めていく。
突然、活気が俺を包んだ。
刹那、俺の体はゴウという音と共に燃え上がった。突然の事に理解が追いつかなくなる。
熱い熱い熱い熱い熱い熱いあついあついあついあついあついあつい!!!!痛い痛い痛い痛い痛いいたいいいたいいたいいたいいたいいたいいたい!!!!!
俺はたまらず、その場から走り出す。
全身が痛かった。燃えているからというのはもちろんの事、それよりも俺の体に容赦無く突き刺さる好奇の視線が痛い。他人からの配慮の無い視線に身悶えしそうだ。
痛みから俺を救ってくれない世界に対して、色々な文句を垂らしながら走っていると、日陰に入るたびに火の手が弱まる事に気がついた。
考えている暇はない、急いで暗い路地裏に逃げ込む。
何も思い出せない。何も。
ここが何処であるかだけではない。自分が何者であるか、親は、友人は、出身は、趣味は、好物は。その一つ一つが霞掛がかったように、思い出す事ができない。それに体の感覚もおかしい。まるで自分の体では無いような、そんな気さえする。
考えてみると異常なほどに感情の起伏が無いのも、このはた迷惑な記憶喪失に寄る物ではないのだろうか。
とにかく、頭がひどく混乱していた。
ぎゅるるううううぅぅぅ……。
空腹に負けた腹が間の抜けた音を出した。しかし、周りには食べ物も、俺を気にかけてくれる人も無い。ただひたすらに暗闇と寂しさが、日光の代わりに、路地裏に降り注いでいた。
もちろん、おそらく日光によって炎上した俺の体に「ならば」と、日光に降り注がれてはたまった物では無いが。
そんな余裕は無いはずなのに、唐突に体が眠気を訴える。コクンコクンと頭部が船をこぎ始める。やがて、そんな動きすら止まり、俺は空腹と寂しさの中、一人眠りに落ちた。
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