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 ふと気が付けばテレビから百八回目の鐘の音が聞こえる。時計を見れば、もう十二時を越えていた。  身体を斜めにし、「善さん」と声をかけた。こちらを振り返った善さんにペコリと頭を下げながら告げる。  「明けまして、おめでとうございます」  「明けましておめでとう。唯、今年もよろしくね」  パチリとした二重の瞳が細くなり、優しい笑みを私に向けられた。  善さんの大きな掌が、私の頭を優しく撫でる。  あぁ、安心する。  飼い猫を可愛がるような優しい手つき。そこから与えられる温もりに、蕩けてしまいそうだ。  そう思ったところで、ふと気付く。  私は善さんに甘えてばかりだ。今年はちゃんと、善さんにも甘えてもらえるようにならないと!  奮い立たせるように断言する。  「私の方こそ、よろしくお願いします! 去年よりもいっぱい、善さんに好きになってもらえるように、頑張る!」  ふはっと噴き出したようにしてから喉を鳴らす。ひとしきり笑った後、善さんはニッコリと口元で三日月を描いてから言った。  「相変わらず、唯は真面目で可愛いなぁ」  ドキドキするのは気のせいじゃないと思う。  きっと、私は善さんに恋をし続けているのだから。  「さてと」と呟いてから立ち上がる。柔和な表情を此方に向けながら言った。  「明日……じゃないや。朝、起きたらとびきりお粧しして初詣に行こうね」  明日の約束。当然のようだけど、非常に嬉しくて堪らない。だって、明日も一緒に善さんと同じ時間を過ごすことが出来るのだ。  だから、この夜の間に、「もっと」って望むのは贅沢が過ぎるのだろうか。
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