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おそるおそる手を伸ばし、灰色のスウェットを引っ張った。振り返る善さんは相変わらず穏やかな表情を浮かべている。
「どうしたの?」
柔らかい表情は、いつも私をリラックスさせてくれる。だけど、今は見ていられないくらい緊張してしまっている。
声を振り絞り、彼の名を呼んだ。
「ぜん、いちろう、さん」
彼を呼ぶ声が震える。
頬に熱が溜まるのを実感する。
小さく「あ……」と呟く声が聞こえた。何の誘いか勘付いたようで。
しばしの沈黙の後、善さんは私と目を合わせるために腰を落としてくれた。先ほど私の頭を撫でた手は頬に当ててくれる。
「ん……」
温もりが愛おしくて、思わず声が漏れる。私が目を逸らしている所為で、見ることはできないけれど、善さんの優しい視線を感じることはできる。
「明日、早いでしょ?」
「そうだけど」
「起きれないかもよ?」
「うっ……」
優しい声色で痛いところを突いてくる。
私が朝、苦手なの知ってるからだ。
そこまで考えたところで、ふと気がついた。
もしかして、とっても子供扱いされてる……!?
「が、頑張ります……!」
必死に訴えるようにして目を向ける。
困った眉の善さんは小さくため息をつく。
「もう……」
私の右手をとり、掌に軽く口づけをした。
「いいね? 唯」
「うん!」
「ベッド、行こうか」
寝室へ促す善さんの目は、既に「男性」の目をしていた。
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