幸福への逃げ道

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「先生、お疲れ様です。サインをいただけますか?」 そう声をかけてきたのは月に一度花を届けにくる商人の娘だった。 「ああ、いつもお疲れ様」 私がサインを渡すと彼女が思い出したように手を打った。 「そういえば、ポプリを作ったんです。たくさんできたからどうぞ」 そう言って彼女が小さな袋をいくつか取り出した。 「随分と数が多いね」 「ええ、たくさん作りすぎちゃったの。患者さんにもどうぞ。季節の花の香りですから」 ああ、そうだ、と彼女の声は明るい。 「廊下にお花、飾ってきますね」 「そこまでしなくてもいいのに。君の仕事じゃないだろう。手の空いてるナースに頼むよ」 いえいえ、と彼女が首を振る。 「花を飾るの、好きですから」 そう言って彼女は自分で持ってきた花束を抱えて廊下に行ってしまった。 ……まぁ、いいか。好意でやってくれるのはありがたいことだ。私にはもっと他に考えることもあるしな。
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