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のぞみをベッドのような棺桶のような充電器に寝かせると、日常が帰って来た。
誰もいない家を掃除して晩ご飯を作る。リビングに散らかった本を片付けてしまえば、のぞみと過ごした痕跡はすぐに消えた。
いつもと同じ、ひとりでの食事。けれど、あの子供っぽくて騒がしいアンドロイドのいないリビングに妙な違和感を覚える。
こっちの方が、私にとって日常のはずなのに。
休み時間の騒がしさも、テレビから聞こえる芸能人たちのトークもみんな耳障りなのに、どうしてだろう。今の私は、あんな風にバカをやってはしゃぎたい。
まるで両親や友達と一緒に過ごしていた。小学校の頃のように。
これは、寂しさ? こんなのいつぶりだろう。
食後にする宿題も、大好きな読書も。今日はなぜか身が入らなかった。
私はきっと、紙に書かれた絵空事なんかじゃなくて、自分自身でする体験を求めているんだろう。のぞみと話し、触れ合うことを。
疑似体験をさせるアンドロイドのはずなのに。私にとってのぞみと過ごす時間は、本を何冊読んでも映像をどれだけ観てもわからない「生」のものなんだ。
もっと早くこの気持ちに気付いていれば、別れ際にのぞみと和解したはずなのに。充電されながら、のぞみは私に怒っているだろうか。
明後日にはお父さんが帰ってくる。なら明日の機会を逃せば当分は会えなくなるだろう。
のぞみと私。お互いに楽しい感情を与え合うことができるだろうか。
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