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待ってよのぞみ、やっぱり昨日の事怒ってるの?
のぞみが腕を動かし、私の顔の方へ手が伸びる。まさか――
直後、のぞみの手が私の顔の横に置かれたかと思うと、のぞみが唇を尖らせた。
え、これって……キスするつもり?
「のーぞーみー!」
私は両手でのぞみの頬っぺたを挟んで、むにゅうとさらに唇を突き出させてやる。
「むぁ、むぁこひょひゃま?」
これはアレだ。昨日見せた漫画で、サブキャラ男が主人公の女の子に手を出そうとしたシーン――所謂壁ドンごっこだ。
「びっくりさせないでよ、もう!」
「で、でもマコト様くらいの女性にはこういうのが……」
もじもじと言い訳するのぞみを前にガックリ脱力する。心配して損した。
「ま、まあ私に合わせてアプローチを変えた点は褒めてあげるわ」
甘ったるい童顔なのぞみに男役が無理なのはさておき。やたらめったら抱き着くんじゃなくて、どうすれば私が喜ぶのかをのぞみなりに考えた結果のようだ。
……まるで小学生の、両親の離婚騒ぎが起きる前に戻ったようにはしゃいでしまっていたことに気付く。
他者は何をしてくるかわからない。私を傷付けることだってある。
けれど楽しい方向に転がる場合だってある。こんな当たり前のことすら、私は忘れていたんだ。
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