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のぞみは乾きなんて気にしなくていいはずの目をぱちくりさせて、相変わらず私を観察していたかと思うと、ベッドのような充電器から両脚を出した。
「く、来るな!」
何をしようとしているかなんて瞬時にわかる。
予想通りのぞみはソックスに覆われた足で床に立ち上がると、予想以上に人間らしい滑らかな動きでこちらへと歩き出した。
よく掃除されてはいる。けれどもお父さんの汗だとか、その他考えたくもないものに濡れたんだろうとなると、自然に嫌悪感が湧いてきた。
アンドロイドは当たり前のように私の身体を触ろうと腕を伸ばしてくる。
そう、これはこういう物なのだ。男を喜ばせるためだけに作られた人型。私は作り物の腕を払い除ける。
するとアンドロイドは一丁前に悲しむ表情をしてみせた。シリコンの人口筋肉が動き眉が垂れる動きが妙にリアルで気持ち悪い。
だがその顔が形作ったのは紛れもなく悲しみの表情。私は同時に罪悪感に胸を痛める。
まるでゲームで倒した敵キャラに申し訳なく思ってしまうように、馬鹿馬鹿しいことだとは承知だけれども。
拒絶されたにも関わらず、アンドロイドのぞみは再び腕を伸ばしてくる。
その時私は悟った。この子は他のコミュニケーション方法を知らないのだと。
「……いいよ」
私は差し伸べられた手を両手で包み込む。けれど身体の密着は許さない。
どうせ私には、これから友達と会う予定なんてない。お父さんはしばらく帰ってこない。お母さんはもういない。食事とお風呂と宿題をやる時間以外を、このアンドロイドに割いたところで問題はないだろう。
「私はマコト。お父さん――あんたのご主人様の娘よ」
これが、愛されるためだけに造られたアンドロイドと、周囲との関係を遮断して生きる私の、奇妙な出会い。
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