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 聖書の神は純粋で自然のままの人間を愛し、知恵をつけた人間を楽園から追い出した。  天真爛漫(てんしんらんまん)にテレビの画面に反応するのぞみの姿が、これ以上の知性を与えることを私に躊躇わせる。今のままでいた方が幸せなんじゃないかと。  でもここで止めたら暇潰しにならない。私はのぞみがテレビ画面に夢中なのを確認すると自室へ向かった。  なんとなくテレビを見せる段階から進めよう。私はそうすることに相応(ふさわ)しいものをいくつか取り出してリビングに戻った。  ちょうど難しいニュース番組に変わったため、私はテレビを消した。名残惜しそうに黒くなった画面を見つめるのぞみに対し、私は部屋から持ってきたものを見せつける。 「次はこれ。文字は読めるよね」 「……?」  私が用意した絵本や漫画を前に、のぞみは不思議そうな顔をした。  テーブルの上にドサドサと積み上げられた本たちを前にして、のぞみはまるで夏休みの宿題を前にしたようだ。  テレビで世界の広さや色々なものが存在することを知ってもらったなら、次は人についてだ。 「人はどんなことをして何を思うのか。それ読んだらわかるかもよ」  抱き合うよりも先にすべきことがある。他にも楽しいことがある。果たして愛玩用アンドロイドにそれが理解できるのか。私はモルモットの投薬結果を待つ科学者のようにほくそ笑んだ。  私の目論見通りにのぞみは一番上に乗せられた絵本を手に取る。  ここから漫画、児童小説と、徐々に絵が減り内容も複雑化していく。さあ、どこまで理解できるかな。
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