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ここは人気のない小さな公園。
砂場と滑り台と古めかしいベンチしかない、
これと言った特徴もない寂れた公園だが、
私にとっては特別な場所だ。
* * *
それは肌を刺すように寒い冬の日。
私は公園の隅で泣いていた。
目の前には「ニャン吉」と書かれた墓。
私が飼っていた白いペルシャ猫の墓だ。
どれくらい泣いていただろう。
ふと後ろのベンチを見ると、
綺麗に畳まれたハンカチと
やや乱暴に広げたまま置かれたマフラー。
しばらく待つも、忘れ物を取りに戻る者はない。
泣いている私を見た人が置いていってくれたのだろうか。
少し迷いつつ、私はそれらを借りる事にした。
その後、洗濯したハンカチとマフラーを返すため、
私は公園に通い詰めた。
しかし、以前から私以外の人がいるのを見た事もないような公園に、
訪れる者はなかった。
もしかしたら公園を訪れる時間が違うのかもしれない。
私はそれらを一晩だけ、ベンチに置いて帰る事にした。
翌朝公園を覗いてみると、
マフラーだけがなくなっていた。
不思議に思いつつ、
綺麗に折り畳まれたまま残されたハンカチは持ち帰った。
翌日、いつものように公園に行くと、
一匹の猫がベンチで休んでいた。
よく見ると、体には例のマフラーを巻いている。
猫は私の気配に気付いたのか、目を覚ました。
そして少しの間、じっと私の方を見た後、
どこかへと歩いていく。
追って見ると、猫は一人の男性の元へ駆け寄って行った。
男性は私に気付くとこう言った。
男性「君、もしかして公園にいた子?」
話を聞くと、彼があの日ハンカチを置いて行ってくれた人だとわかった。
あの日、手に持っていたマフラーをいきなり現れた猫に奪われ、
マフラーを咥えた猫を追いかけた先があの公園だったそうだ。
しかし猫もマフラーも見当たらず、
泣いている私の側のベンチにハンカチを置いて帰ったという。
私もマフラーを巻いた猫を追ってここに来た事を伝え、
猫のいた方に視線を遣った。
しかしそこに猫はおらず、
ただマフラーだけが残されていた。
* * *
そして今、人気のない公園のベンチに座る彼と私。
砂場には無邪気に遊ぶ私たちの子供。
公園の隅には「ニャン吉」の墓。
その後、例のマフラー好きの白いペルシャ猫を見かける事はなかったが、
きっと今もこの公園の中で眠っているのだろう。
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