【第一の不思議/後編】

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【第一の不思議/後編】

〔バスケ部員が出る理由〕  体育館の床へと引きずり込まれて意識を失っていたナナミは、意識を取り戻すとガバリと起き上がり、辺りを見回した。  辺りには、白いマットや跳び箱、籠に詰め込まれたバスケットボール、バレーボールなどが置かれていて、ナナミはすぐさまここが体育館の倉庫の中だと気付き立ち上がる。 (私、どうしてここに…?そっか!) 「君、スゴいね…。あんな狙ってもいない投げ方をして、シュートを決めるなんて…」 「!…あなたが噂の、バスケ部員…?」 「そうだよ」  自分がどうしてこのような所にいるのかを考えていたナナミの目の前に声をかけながら現れたのは、彼女が意識を失う前に見た人型だった。  始めこそ白いもやのようだったそれは、段々と目鼻立ちや輪郭、服装などがはっきりとしだし、普通の人間と変わらないほどになっていった。 その為、ナナミの中の恐怖心は薄れ始めていた。 「どうして、うちの学校の体育館にいるんですか…?」 「この学校は、僕が最後に試合をした場所なんだ…」 「最後…」 「そう、生きてる時にね。3年だったから最後の試合でね…、僕にとっては二つの意味で最後になっちゃったけど」 「………」 「死ぬ前までもっとバスケしたかったって思ってたからか、ここで誰かがシュート練習してるとつい見に来ちゃうんだ…」 「…それで『スリーポイントシュートを決めるとバスケ部員が現れて連れ去られる』って噂が…」 「そうみたいだね。連れ去るっていうのはただの噂だったんだけど…」 「え…」 「まさか、女の子がきて決めるとは思ってなかったし、生きてる時はバスケする女の子とも話したことが無かったから思わず連れて来ちゃった」  楽しそうに話す青年にナナミは内心、(そんな理由で…)と溜め息を吐いた。  そんなナナミに気付いて青年は少し困ったように笑うと一言謝り、自らのことについて話し始めた。 「…ごめんね」 「あ…」 「…僕、小さい頃から人見知りでね…。そんな性格を直したくて昔から好きだったバスケの部活に入ったんだ。そのお陰で友達も出来たし、先輩や後輩みたいに年上や年下の人とも仲良くなれた…」 「………」 「だけど、女の子とはあまり話したことが無くてね…」 「…今、私相手に話せてるじゃないですか」 「うん。それが僕にも不思議なんだ…。君をここへ連れて来た時も、普段ならあのまま姿を消すだけなのに、あの時はなんだかどうしても君に来て欲しくて…」  自分を連れ去った時のことを申し訳なさそうに話す青年の姿に、ナナミの中からは完全に恐怖心が消えてていた。 「私に、なにかして欲しい…とか?」 「え!えっ…と、手を…」 「手?」 「うん…。女の子と話したことが無かったから、付き合ったこともなくて…。だけど、女の子に興味が無かった訳じゃないから…その…」 「………手、どうするんですか?」 「え!?あ、その…、繋いで、みたくて…」 「良いですよ。はい」  落ち着きなく目を泳がせながら話す青年に手を差し出したナナミ。 そんなナナミに青年は一瞬たじろいだが、意を決すると、恐る恐るゆっくりと手を伸ばし、そっとナナミの手に自らの手を重ねた。  ヒヤッとした温度が手に伝わり、ナナミはピクリと身体を震わせたが、そっと自分の手に重ねられた手を握った。  一方の青年は、初めて女の子と手を繋いでいるという事実に顔を赤らめていたが、もっと実感したいと少しずつ手に力を込め始めた。 「…これで、いいですか?」 「あ、ありがとう…。まさか、僕の願いを聞いてくれるなんて…」 「他には…」 「え?」 「他には、ありませんか?」 「!…じ、じゃあ、もう一つ…」 「私に出来ることだったら…」 「その…」 「はい」 「君を…、抱き締めさせて、くれるかな…?」 「抱き締める…?」  まさかの言葉にさすがにナナミも考え込んでいたが、チラッと目に映った青年の赤面した顔に小さく息を吐くと、「…いいですよ」と言って青年に向き直った。  了承を得られると思っていなかった青年は目を見開き、何度も確認し直した。 その度にナナミは了承し、漸く青年はそれを理解すると息を飲んだ。  そっとナナミに近付いた青年は、震わせながらも両腕を伸ばしてナナミの背中へと回した。 ギュッ 「っ…、ナナミちゃん、だったよね?」 「はい…」 「どうして、僕の願いを聞いてくれるの…?」 「…あなたが、いい人そうだから…」 「え…、いい人、そう…?」 「生きてた時も頑張ってて、死んだ後も好きなことから離れてなくて…、そんな人が悪い人なわけないだろうしって…思って…」 「………ありがとう、ナナミちゃん…」 「いえ…」 「!………僕、行かなきゃ…」 「え、行くって…」  礼を言い、嬉しそうに笑った青年は何かを思い出したように一言呟くと、ナナミの前から消えていった。  残されたナナミの手と背中には、青年の触れていた感触が残っていて、その感触にナナミは思わず俯いた。  しかし、すぐに顔を上げたナナミはグッと手を握りしめると、ナナヤ達を探しに体育倉庫を後にしたのだった。 「…そうだ、ナナヤ達を探さなきゃ!!」 end
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