高校時代

6/10
前へ
/59ページ
次へ
 彼女は明るく、友達も多かった。冴えない私に優しくしてくれました。  おとなしめで、自己主張をあまりしない私。そんな私が、彼女と仲良くなれたのが嬉しくて、好きなバンドを共有できたのが嬉しくて。  絵が上手な彼女は、ポルノグラフィティのロゴをA4用紙にカッコよく、可愛く描いてプレゼントしてくれました。何枚も。  私は、壁側の席だったので、壁や机にそれらを貼り付けました。  当然担任に怒られ、全て剥がされますが、毎日それを貼るというもはやストライキのようなことをしていました。  今思うと完全に奇行ですね。普段おとなしいやつが、突然ポルノグラフィティのロゴが机の周りを囲み始めるという、周りから見たらサイコパスな光景です。  そういうおかしな点が私にはありました。不意に、私は発達障害なんじゃないかと考えたこともありましたが、今はわりとまともだと思うので、単純に常識がなかったのでしょう。  高校は、校則が厳しく、化粧はダメ、スカートは膝下、ローファーは踵を踏んではだめ、バイト禁止。そんな状態でした。  化粧をして登校すると、校門でメイクチェックがあり、その場でメイク落としシートを10円で購入させられて、落とさせられます。  だから皆文化祭は、校内でメイクをしていたのです。  バイトは、理由を書いて申請し、それが通ればOKでした。しかし、それが通るのは、片親など金銭的に苦しい家計の生徒だけでした。  私は、どうせ申請が通らないだろうと黙ってバイトを始めました。  部活があるので、出られるのは基本土日だけ。それも表に出ると学校関係者にバレると困るので、裏に籠ってできる仕事のみ。そんな条件の多い学生を雇ってくれるところは少なく、何度かバイトの面接も落ちましたが、拾ってくれたのはお蕎麦屋さんでした。  家族でよく食べに行っていた近所のお蕎麦屋さん。家族総出で営業していて、人気があったので忙しかったです。  人生初のバイトは、コミュニケーションが苦手なことと、物覚えが悪いこととで苦労しました。  よく覚えていることが2つ。夫婦2人と娘2人が主になって店を回していたのですが、娘2人による苦い思い出です。  お姉さんの方が面接も、指導もしてくれていました。明るくて気さくな人でしたが、もちろん仕事に対しては厳しい人でした。  覚えの悪い私にも、優しく教えてくれましたが、洗い物をしていたある日のこと。 「こはるちゃん、変わるね」  そう声をかけられたので「あ、はい。ありがとうございます」と答えました。  すると「あのね、こっちは仕事でやっててボランティアじゃないんだから、ありがとうって言われる筋合いはないから」と怒られました。  私の頭の中にはクエスチョンマークでいっぱいです。  なぜ、怒られた? このタイミングで?  全くわけがわかりませんでしたが、洗い物を変わってもらう際、ありがとうはだめだったようです。  しかし、その時になんて声をかけたらよかったのかわかりません。  結局その答えが見つからないまま、次の週、また「ありがとうございます」と言って怒られます。  その次の週、別のバイトの男の子が「お願いします」と声をかけ、「はいねぇ」と機嫌良く答えいるところをたまたま見て、正解は「お願いします」なんだと知りました。  しかしこれ、未だに納得していません。確かに、お互い働いている身であって、洗い物も「やって当然のこと」。ですが、現在は私が行っている仕事をお任せするのだから「やってもらって当然。お願いしますね」はおかしい気がするのです。  私の今の職場だって、手伝ってもらったら「ありがとう」と言います。まず、お礼があって、改めて「お願いします」なら納得がいきますが、最初から「ありがとうございますって言われる筋合いない」と拒否されるのもおかしな気がします。  ただ、彼女にとっての正解は「お願いします」だったので、その後はそれで通すことにしました。
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

282人が本棚に入れています
本棚に追加