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第1章:絵本と本は微妙に違うらしい。
「洸紫(コウシ)って本読んだことないだろ?」
先輩の澤田さんに真顔で聞かれドキッとする。
「あ、ありますよ。」
「最後に読んだ本は?」
散々台本の漢字を読み間違えた後なので、普段温厚な澤田さんが珍しく追求してくる。
「えっと『いもむしの大冒険』です。」
「それは絵本だろ!俺も小さい頃読んだし。」
やっと澤田さんが笑顔になる。彼も読んでたのか!よかった!
「あれは名作ですよね。いもむしが食べたみたいに、本に穴が空いていたような気がする。」
「ああ、でもあれは絵本だからな。ロクさんにオススメの本でも紹介してもらうか。洸紫の演技用に。」
「ロクさんは美海(みう)ちゃんの事務所の社長ですよね。コワモテの顔とファッションの。」
「うん。彼は演技指導もやってるからいいアドバイスくれるよ。俺も昔はお世話になったよ。」
澤田翔太さんは演技力に定評がある。俺が彼にお世話になっているのも、事務所の社長の計らいだ。
俺たちは同じ芸能事務所に所属しているが、今年22歳になる俺が入所したのは2年前だ。澤田さんは今25歳で確か13歳くらいから芸能活動をしている大先輩だ。
アイドルとしてグループデビューしているが、本人の意向もあって芝居に重きを置いて活動している。
彼の舞台を去年見に行った時は、感動で涙が止まらなかった。
内容は難しくてよくわからないのに、心に響くものがあった。
「あ、ちょうどロクさん達来たみたい。ちょっと話してみようか?」
台本読みの打ち合わせに、ロクさんと美海ちゃんが現れる。
ヒロイン役の美海ちゃんは17歳の女優。デビューして2年満たないようだが、俺なんかよりずっと演技が上手だ。
去年はフランスの映画祭の特別賞を取ったらしい。
「美海ちゃん今日も可愛いな〜。」あ、やべ心の声が出てた。
「そうだな。でも手を出すなよ。」澤田さんにやんわり注意される。
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