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向こうから図体の大きいバルバロが歩いてくるのが見えて、ネフリーは廊下の端を歩く。するとバルバロは、ネフリーにわざとぶつかった。
「あっ……」
ネフリーはよろけ、本を落としてしまった。
「おっと、これはこれはネフリー王女。失礼しました」
バルバロはニヤニヤしながら言うと、本も拾わず去っていく。
「感じの悪い男ね……」
ネフリーはバルバロが去った方向を睨みつけながら言う。
バルバロは王の側近兼護衛だが、女性や自分より階級が下の者をバカにしている。その歪んだ性格は徹底しており、格上であるネフリーのことですら、女だからとバカにしている。
「はぁ……、気にしない気にしない。せっかく読みたかった本が手に入ったんだから」
ネフリーは悪い考えを振り払うように頭を振ると、中庭に戻った。テーブルの上には新しい紅茶と茶菓子が用意されており、彼女は気を取り直して読書を楽しんだ。
2時間もするとキリのいいところまで読み終わり、ネフリーは小さく息を吐いて顔を上げた。
「ヘンティルは、まだ乗馬を楽しんでいるのかしら?」
ネフリーは立ち上がって伸びをすると、本を抱えて乗馬場へ足を運んだ。
乗馬場では、ヘンティルが颯爽と野原を駆けている。いつもと違う凛々しい顔つきのヘンティルに、ネフリーはうっとりと見とれる。
「素敵……」
ネフリーに気づいたヘンティルは、馬の速度を落としてネフリーに近づく。
「やぁ、ネフリー。読書はどうだった?」
ヘンティルが片手を上げながら声をかけ、ネフリーも近づこうとしたその瞬間、ヘンティルを乗せた馬が暴れだした。落馬したヘンティルは、馬に踏まれてしまった。
「ぐああっ!!」
「ヘンティル! 誰か! ヘンティルが大変なの! 誰か来て!」
ネフリーが叫ぶと、使用人達がぞろぞろと乗馬場へやってくる。馬は嘶きながらヘンティルから離れ、走り回る。
「王子!」
「ヘンティル王子! 誰か、担架を持ってこい!」
誰かが怒鳴るように言うと、ふたりの若い使用人が城内へ戻った。
ネフリーはヘンティルに駆け寄り、彼を抱き起こす。
「ヘンティル……! しっかりして!」
ヘンティルは頭から血を流し、目を固く閉じている。
「王女、あまりお身体を動かさない方がよいかと」
中年の使用人に言われ、ネフリーはゆっくり彼の身体を寝かせ、手を握る。
「大丈夫、きっと助かるわ!」
ネフリーが大声で喚くように言うと、担架が運ばれてきた。
使用人達はヘンティルを慎重に担架にのせると、医務室へ向かう。ネフリーもあとからついて行こうとすると、視線を感じて振り返った。
(あれは……!)
生い茂る木々の影に、吹き矢を持ったルグレを見つけた。ルグレはネフリーと目が合うと、姿を消した。
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