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「ルグレがヘンティルを……。許せない……!」
ネフリーは怒りを滾らせながらも、ヘンティルが優先だと、担架を追った。
医務室に入ろうとすると、使用人が立ち塞がった。
「そこをどきなさい!」
「ヘンティル様の治療をしている間は、誰も入れるなと先生が……」
使用人は申し訳なさそうに言うと、俯いてしまった。
「そんな……。あぁ、ヘンティル……」
身体から力が抜け、その場にへたり込んでしまう。
「大丈夫です、ヘンティル様はきっと元気になりますから」
使用人は跪くと、ネフリーに言葉をかけた。
「ありがとう……。そうよね、大丈夫よね……」
ネフリーは祈るように、翡翠のペンダントを握った。そのペンダントは、以前ヘンティルが「この翡翠は君の瞳のように美しい」という言葉と共に、ネフリーにプレゼントしてくれたものだ。
ヘンティルの治療は終わる気配がなく、夕食の時間になっても医務室のドアは固く閉ざされたままだ。
「王女様、そろそろご夕食のお時間ですが……」
若いメイドが、恐る恐るネフリーに声をかける。
「いいえ、いらないわ……」
憔悴しきったネフリーは、蚊の鳴くような声で言う。
「ですが……」
「いらないって言ってるでしょう!?」
声を荒らげて睨みつけてくるネフリーに、メイドは小さな悲鳴を上げて後ずさる。ネフリーはハッとして、怯えたメイドを見る。
「ごめんなさい、心配してくれてるのに……」
「いえ、失礼しました……」
メイドはそそくさとその場から去っていった。
「私は、なんてことを……」
罪悪感に苛まれ、ネフリーは俯く。見張り番をしている使用人は、気まずそうに顔を歪めた。
10分もすると、メイドはワゴンを押して戻ってきた。
「ホットミルクとクッキーです。せめて、これだけはお召し上がりください。そちらのあなたも、どうぞ」
メイドはホットミルクをふたりに手渡す。ネフリーはホットミルクをじっと見ると、メイドを見上げた。彼女は優しい目でネフリーを見つめている。
「ありがとう。それと、さっきはごめんなさい……」
「いいんです。それより、これを使ってください」
メイドはワゴンの下から真っ赤な肩掛けを取ると、ネフリーの肩にかけた。暖炉の前にでも置いていたのか、肩掛けはとてもあたたかい。
「あったかい……。なにからなにまで、本当にありがとう」
「いえ、気にしないでください。ワゴンはこのまま、ここに置いておきますね」
メイドはペコリと頭を下げると、その場を去っていった。
ワゴンの上には、3枚のクッキーがのせられた皿が並んでいる。クッキーを食べてホットミルクを飲み干すと、ネフリーは少しだけ落ち着きを取り戻した。
「神様、どうかヘンティルを助けて……」
翡翠のペンダントを握りしめ、ネフリーはヘンティルが一命を取り留めることを祈った。
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