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医務室のドアが開いたのは、日付変わってまもなくのこと。この時間になるまで、見張りの使用人はふたり交代した。その間、ネフリーはひたすら祈り続けていた。
「先生! ヘンティルは……」
ネフリーは疲れきった顔の医師に詰め寄る。医師はネフリーから目をそらした。医師のこの動作で、ネフリーはヘンティルの死を悟った。
「そんな……! ヘンティル!」
ネフリーは医師を押しのけ、医務室に入る。頭に包帯を巻いたヘンティルは、ベッドの上に横たわっている。
「ヘンティル!」
ベッドに駆け寄り、彼の顔を見る。ヘンティルは固く目を閉じ、頬に触れると微かなぬくもりが残っている。
「嫌よ、ヘンティル! 私を置いてかないでよぉ……!」
ネフリーはヘンティルの手を握り、その場に泣き崩れる。
「私はこれから、どうしていけばいいの? あなたのことしか考えられないのに……。どうして!? なんでヘンティルが……」
嗚咽を上げながら泣きじゃくっていると、ヘンティルの手が、ネフリーの手を握り返した。
「!? 先生! ヘンティルが、ヘンティルが私の手を!」
希望に満ちた声で医師を呼ぶと、彼は首を横に振った。
「残念ですが、ヘンティル王子は亡くなられております。今のはきっと……死後硬直でしょう」
医師が言いづらそうに言うと、ネフリーはヘンティルの顔を見る。相変わらず固く目を閉じているが、どこか苦しそうに見える。
(そうだ、ヘンティルはルグレに殺されたのよ……)
ネフリーは木陰からこちらの様子を見るルグレの姿を思い出した。ヘンティルが死んで1番得をするのは、彼の義弟であるルグレだ。
ネロの法律では次男がどんなに優秀だろうが、長男にその気がなかろうが、長男が王位を継ぐことになっている。
ヘンティルはとても優しいが、勉学の方は良くもなく悪くもなく、イマイチぱっとしないものだ。優しさゆえに優柔不断なところもあり、王に向いているかと問われれば、頷きがたいものがある。
一方ルグレは、剣術、乗馬、勉学のすべてに秀でており、判断力もある。実父である王からも絶大な信頼を得ており、模擬戦の指揮を何度もやらせてもらっている。しかも今のところ全勝と来た。
大臣達も、法律を変えて次の王はルグレにすべきだと陰で言っている。
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