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「ここで大人しくしていろ。せめてもの慈悲に、これをやる」
兵士はネフリーを鼻で笑いながら、カビだらけの毛布を彼女に投げつけた。毛布は悪臭を放ち、ネフリーは反射的に毛布を隅に蹴り飛ばす。
「このっ……! 恥を知りなさい!」
ネフリーが睨みつけると、ふたりの兵士は声を上げて笑う。
「はははっ、恥を知るべきなのはあんただ。元王女」
「王子を殺人犯呼ばわりするとは、恐れ入るね!」
ふたりは笑いながら地下牢から出ていった。
「事実なのに! ヘンティルは、あいつに……!」
ネフリーは錆びた鉄格子を握り、怒りの涙を流した。
(私はこのまま、ヘンティルの真相を明らかにすることなく死ぬの? そのあとも、ルグレはのうのうと生きて、いずれ王に……)
自分が理不尽に処刑されることよりも、ルグレが生き続け、王になることに怒りを覚えた。
「そんなの、間違ってる!」
怒りに任せて鉄格子を殴りつける。錆びた棘が、ネフリーの手に刺さる。
「っ……!」
手を引っ込めると、静かな足音が聞こえた。
(また兵士が私を馬鹿にしにきたの?)
ネフリーは警戒しながら、ドアを見つめる。
ギィィと耳障りな音を立てながらドアが開き、背の高い男が入ってくる。暗くて顔は見えない。男はまっすぐネフリーの牢に近づき、彼女の前で立ち止まる。
「お前は……!」
ネフリーは目を見開き、男を見上げた。闇に溶け込みそうなほど黒い髪に浅黒の肌、そして国王譲りの赤い瞳……。
「ルグレ……! 私はお前を、絶対に許さない!」
ネフリーが殺意をむき出しにすると、ルグレは眉をひそめた。
「その手は、どうした? 見せてみろ」
(私を心配するふりをして怒りを紛らわせようとしてるの?)
「嫌よ!」
「いいから見せろ!」
いつも物静かなルグレの大声に肩を震わせ、ネフリーは渋々手を出した。彼女の手には錆が刺さり、血が滲んでいる。
「これは、痛いだろう……。リンピオ」
ルグレは顔をしかめると、ネフリーの手を握って呪文を唱えた。一瞬で水がネフリーの手や鉄格子を包みこむ。ジメジメしていてカビ臭い空気が澄み渡り、呼吸が楽になった。
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