同窓会のお知らせ

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同窓会のお知らせ

 駅の改札口から出た途端、吉川遙はあまりの眩しさに軽いめまいを覚えた。アスファルトを夏の日差しが容赦なく照りつけている。駅前はロータリーになっているため、直線の道路や広場などで見受けられる蜃気楼の光景はないが、もっと遠くまで見渡せるような場所だったら、水に浮かんだような景色が見えたかもしれない。  遙は中学校を卒業してすぐに、両親の離婚により隣の地区へ引っ越してしまったため、卒業以来5年間クラスメートとは会っていない。中には少しの期間親交があった友もいたが、遙もクラスメートも新しい高校生活を送る中でいつしか疎遠になってしまった。  この駅に降り立ったのも遙がこの地区に住んでいた時以来だった。5年の歳月が過ぎたにもかかわらず、駅前の大衆居酒屋、色あせた赤いのれんを掲げたラーメン屋、駅に降り立つたび食欲をそそる香りと煙を振りまいていた焼鳥屋の屋台、小さな洋菓子店、駅前の住民が個人で貸している駐輪所など、お世辞にも新都市型とは言えない駅前の風景はそのままだった。  1ヶ月前に遙は「S中学校3年3組 同窓会のお知らせ」のハガキを受け取っていた。中学卒業と同時期に引っ越しをしてしまった遙の元には、なかなか同窓会の誘いが届かなかったのだが、遙の新住所を知っていた中学時代の女友達が、今回幹部となったクラスメートと今でも親交があり、遙を誘う運びとなったらしい。  中学時代の思い出といえば胸がちくちく痛むような出来事しか心に残っていない遙にとっては、出席するのにかなり迷ったのであるが、5年の歳月が苦い思い出を少し中和してくれていた。また中学時代から5年たった今クラスメートがどう変わったかを見てみたい誘惑には勝てず、出席の返事を出したのだった。  クラスメートの中でとりわけ会って話したい人物がいたのも、遙を同窓会に引き寄せる大きな理由になっていた。 「ちょっと早かったかなぁ?」 「あっ、でも1足靴があるよ。誰か来てるんじゃん」 同窓会会場となった居酒屋の階下から、明るい声が聞こえてくる。開け放たれたふすまの向こうで見たことのある顔が姿を現した。 「わぁー、遙じゃん。久しぶり。卒業以来だね。元気してた?」 中学時代、いつも元気な大声で誰にでもフレンドリーに話していた美奈代と、彼女と同じバレー部だった和美だった。 「元気元気。誰?とか言われなくて良かった。美奈代も和美も変わってないね」 自分から色々話してくれる美奈代が来てくれたので、みんなが来るまでの間を思うと、遙は内心ほっとした。それから他のクラスメートも次々と集まりだし、出席者は20名弱となった。 最初は和美たちと一緒にいた遙だが、クラスメートが集まって来るに従い、皆それぞれ親しくしていたグループへと別れていった。 「遙は5年ぶりだね。今は何してるの?」 「近くの病院の受付をしてる。友子は?」 「私は情報処理の専門学校。」 同窓会にありがちの、近況報告をしあう。 「そういえば、香や真由美はどうしてるの?」 「香はできちゃった結婚してもうママになったよ。真由美とは最近連絡取ってないからよくわかんない」 クラスメイトたちの近況も定番であるし、高校を卒業するとちらほらと家庭を持つ人も出てくる。 「そういえば香、中学の頃野球部の金井君が好きだったんだよね。中学の頃は坊主だったのに今見ると結構いい男じゃん」 中学時代は学校全体も、それぞれの部活でも決まりごとが厳しく、窮屈な思いをしていたこともあった。だが今はそれが解き放たれて、それぞれ自由な表現ができる年代になっている。性別問わずに、皆ぐっと大人への顔へ近づいてきている。 「そういう遙だって卓球部の桜井君と一時期付き合っていたじゃない」 「そんなこともあったねー」 遥は無関心を装い、青りんごハイをグイッとあおった。 「桜井君、卒業するまでって言うか卒業したあとでもずっと遙のこと好きだったらしいよ。なのに遙、最後まで邪険に扱ってたよね」 「そうだっけ?」 とぼけた遙だったが、本当は桜井慶吾とのことを全て覚えていた。
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