業務引き継ぎ(一方的)

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業務引き継ぎ(一方的)

神は数千万年ぶりに、面白がっていた。高揚の理由は目の前に居る二人ではない。一見すると神には相応しくない二人を連れてきた、神事補助システム通称“神次„(しんじ)の選択センスを面白がっている。だがそれは神の表情には出ない。数億年の暇は神の表情筋を鋼のように硬くしていた。スーツ姿の人間が痺れを切らし問う。「おい!ここはどこで、何故ここに呼ばれたんだ!」さて、どこから教えよう?考えていると、「いちいち、そんなに焦るなよ」もう一人の人間が口を挟む。人間は騒がしい。そんなこと知っていたが、ここ一、二千年の間、人間にあっていない分余計に、騒々しく感じる。だが、不思議と不快ではない。まあ、大体の説明をした方が効率が良いだろう。「お前らは、選ばれた」神は勿体ぶって話す。世の理だ。「選ばれた?何に?神にでもか?」スーツの男は苛ついている。分かりやすい人間だな。「だとしたら、光栄だな」残りの、やけにダボッとした服の男が軽口を叩く。ふざけるやつ程、案外必死に状況を理解しようとしてる。そうと分かると急にこの男が滑稽に見える。「お前には聞いてない。おい!あんたに聞いてるんだ」会話とは案外、面倒なものだな。勿体ぶって話していたら、いつまでたっても話が進まない。「お前らは、神である私の職務を引き継ぐに値すると評価され、ここにいる」人間二人は真実を求めたのに、手に入れた瞬間すぐに黙りだ。これじゃあ今世紀中に話が終わらない。にしても、何故黙っているんだ?これが俗に言う、思案なんてやつなのかもしれない。やはり人間は常に予想外だ。フフッ 笑みがこぼれる。会話は面倒なんかじゃないな。「何で、笑ったんだ?」ダボッとした服の男が問う。「それはお前ら人間が、面白いからだよ。えーと、」「根羽堕だ。」「根羽堕よ人間は面白いと思わないかね?」「まあ、思わないことも無い。かもなぁ」「二人とも何の話をしているんだ!まあ、神を1人と捉えるのかは知らないが、今はさっきあなたの言った件について話し合うべきだろう!」よくもまぁ、そんなにスラスラと言葉が出てくるものだ。日本語とやらは繋がりが強い言語なのかもしれない。「そう急ぐな、時間はたっぷりとある。」「俺は時間なんて関係無いしなぁ」根羽堕が呟く。「私には関係あるんだ!何が神だ!馬鹿馬鹿しい」スーツ男が怒る。そういえば、こいつの名前は知らない。「なあ、怒ってる君。名前は何ていうんだ?」「筑紫田だ!」「筑紫田よ、何を怒っているんだい?」「私の時間を不当に搾取されていることについてだ!」「では、その時計とやらを見ればよかろう」「時計だあ?」腕時計を見た筑紫田の目は、面白いほどに開かれた。「何だ?何だ?」根羽堕も筑紫田の腕時計を覗く。また、同じような表情になる。それが酷く面白い。これだけで150年は潰せる。「二人揃って何を驚いているんだ?」「そりゃ驚くだろうよ。だってこいつの時計が、ぐるぐる高速で回ってるんだぜ?」何だそんなことで驚いているのか。「当然であろう、ここには時間の概念は無いのだから。」そうか、それを知らなければこの愚談は無駄にしか思えないだろう。所詮、全知の存在とて知らぬことは知らぬ。それがやけに嬉しい。「では、根羽堕と筑紫田よ。業務引き継ぎを始める。」
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