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「あの!」
「!」
「あ、待って!」
突然声を掛けられた娘は、ビクリと身体を震わせ踊りを止めると、声のした方へ顔を向けた。
青年の姿を見つけ、目が合うと同時に娘はその場から駆け出した。
逃げる娘に慌てた青年もその場から駆け出し、娘の走って行った方向へと足を向ける。
しかし娘はすぐに姿を消し、見失った青年は辺りを手当たり次第に探し始めた。
けれど、どこを探しても娘の姿は見当たらず、肩を落とした青年は自宅へと戻って行った。
翌日も青年は湖へ向かったが娘の姿は無く、それから数日経っても娘が湖に姿を現す事はなかった。
それからは、毎日の様に湖へ足を運び娘の姿がない事に落胆し続けた青年。
声を掛けた罪悪感と娘の姿を見られない焦燥感で食事は喉を通らなず、夢でまで娘が消えてしまう度に目が覚めて眠れなくなる日々。
青年は、日に日にやつれ始めていった。
そんなある日、家に居ても仕方無いと青年は娘を探して森の中をあても無くさ迷い歩いた。
自分がどこを歩いているのかも、家への帰り道さえも分からなくなりながら、それでも娘の姿だけを探し続けた。
ドサッ
次の日、青年は力尽きその場に倒れ込んだ。
数日間飲まず食わずで睡眠も摂らず、弱りきった身体で森の中を歩き回り、休みもせず、家へも帰れなくなり、身体に限界が来たのだ。
意識が遠退き始めた青年は目を閉じ、娘の姿を思い浮かべながら、もう一目だけでも会いたいと願った。
その時、そよぐ風に乗って小さく聞いた事の無い音楽が青年の耳に届いた。
どこか暖かく、心地の良い音楽に青年の身体は少しだけ癒された。
しばらくの間、その音楽に聞き入っていた青年はうっすらと目を開けると、その音楽が聞こえて来る方へと這って近付いていった。
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