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音が大きくなるにつれて青年の身体は元気を取り戻していき、しまいには走り出せる程にまでなっった。
ようやく音の近くまで来た青年の目に映ったのは、森に住む大小の動物達がその音楽に引き寄せられるかの様に、皆同じ方向へと向かって歩いている姿で、動物達にならい青年も同じ方向へと歩いて行く。
辿り着いた先はあの湖で、音楽は湖自体から流れてきていた。
そして、その湖の中央には青年が探し続けた娘が静かに佇んでいて、はっとした青年は、湖の周りに集まっている動物達を掻き分けてふらふらと湖へと近付いていった。
青年が湖の淵に辿り着いた瞬間、それまで流れていた音楽はぴたりと止み、青年も驚いて足を止める。
不思議に思いながらも娘から目を離さずにいると、再び音楽が流れ始め、同時に娘も音楽に合わせて踊り始めたのだ。
娘の踊りは今まで幾度と無く見て来たもので、嬉しさと懐かしさで胸に込み上げて来るものを感じた青年は、ゆっくりと湖へ足を踏み入れた。
湖は青年の足を沈める事は無く、一歩また一歩と娘へ近付いていく。
その姿に気付いてはいた娘だったが踊る事は止めず、それでも青年から目を逸らす事は無かった。
手を伸ばせば届く位置までやって来た青年は一瞬戸惑ったものの、娘と目が合い、身体は無意識に動いていた。
娘の手を取ると、自らの方へと引き寄せて強く抱き締めた青年。
「やっと、会えた…」
「………あなたは、何故ココに?」
「君を、探していたんだ…」
「私を探していた?」
「ああ…」
「そう…。ねえ、あなたは私と一緒に踊れる?」
「え…」
にこっと笑って青年の手を握り返した娘は、一度止められてしまったステップを踏み、青年の手を引いて再び踊り始めた。
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