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踊りの流れをずっと見てきた事や娘のリードがあり、すぐに青年も音楽に合わせてステップを踏み始めた。
森の動物達に見つめられながら、心地の良い音楽にのり、ずっと探し続けた愛しい娘と手を繋いで湖の上で踊る。
あまりの心地良さに、何だか夢の中にいる様な感覚に陥った。
けれど、繋いだ手から伝わる娘の温もりに、これが夢では無いのだと実感出来た。
じっと娘を見つめていると、見つめられている事に気付いたのか、娘は顔を上げ青年を見つめて微笑んだ。
「…君は一体、何者だい?」
「…私は踊り子」
「名前は?」
「無いわ」
「どこに住んでるの?」
「ココよ。この森に住んでるの」
「え…」
「…今日は、この森の10年に一度のお祭りなの。私は、何十年も前からお祭りの時にこの湖で踊るのが役目の踊り子よ」
「………君は、人間じゃないの?」
「ええ…。あなたは人間よね?私は人間に見つかったの初めてよ」
苦笑しながら話す娘に、青年は驚いて言葉を返せずにいた。
自分を見つめて黙り込んだ青年に娘が俯くと、音楽も静かに終わった。
そっと手を離した娘は、くるりと回転すると青年の目の前に膝まずき、すっと顔を上げて青年を見つめ口を開いた。
「今更とは思いますが、もし宜しければ一緒に踊って下さいませんか?」
「…え?」
「私は、このお祭りに人間が参加した場合、その人間が同性ならばその方にお仕えせねばならず、異性ならばその方と結婚せねばならないのです」
「け、結婚!?」
「それが昔からの決まり事なのです」
「………」
「踊り子である私の手を取り、一緒に踊って下さるという事は一生を添い遂げるという事になるのです」
「一生を…添い遂げる…」
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