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娘の言葉に青年は胸が高鳴った。
驚きはしたものの、娘との結婚は嫌では無かったからだ。
しかし、娘はそれで良いのかと考えると言葉を返せず、そんな青年に娘はまた俯いてしまった。
そして、寂しそうに口を開いた。
「…本当はいけないのですけど、お嫌でしたら、今すぐこの場からお逃げ下さっても構いません」
「逃げ、る…?」
「ええ…。一緒に踊ってみて分かりました。あなたはとても優しい方、私はそんなあなたに無理強いしたくありません。ですから、私が見ていない内に…え?」
スッ
「嫌な訳無い。むしろ、ずっと君が好きだった…」
「ずっと…?」
「ああ」
優しく肩を掴まれ、思わず顔を上げた娘は青年の真剣な表情と言葉に頬を染めた。
膝を折った青年は顔の位置を娘に合わせると、娘の疑問にしっかりと目を合わせながら答える。
「僕は前からずっと、君の踊りを見て来た。暑い日でも寒い日でも、晴れの日でも雨の日でも、君はとても伸びやかに、そしてとても楽しそうに踊っていた。僕はそんな君を、好きになったんだ…」
「………」
「だから、君との結婚を嫌だとは思わない。むしろ…、こちらからお願いしたいくらいだ」
「…ありがとう、ございます…」
少し照れた様に愛を告げる青年に娘は涙を流し、小さく微笑んだのだった。
――その後、青年と娘は青年の家で仲良く暮らし、青年は一人では無くなった。
「そう言えばあの時、どうして君は逃げたんだ?」
「あの時?」
「お祭りの数日前に、僕が声を掛けた時」
「あの時は本当に驚いたんです…。それに…」
「それに?」
「練習中だったので、完璧でないものを見られた事が恥ずかしくって…。でも、ずっと見ていてくれたんですね」
「…ずっと目が離せなかったんだよ、君から」
終わり
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