3人が本棚に入れています
本棚に追加
桃の花言葉(♂×♀)
桃の花言葉【私はあなたのとりこ】
「なぁ、こっち向いてくれよ…」
「静かにして、今集中してるのよ…」
声を掛けられた女は、少し強めの口調で、声を掛けて来た青年に言葉を返した。
「そんなの後で良いから、俺の方見てよ…」
「もうっ、本当に後少しだからもう少し待ってて…」
「…何回目の後少しだよ…」
かれこれ数時間はこの調子で、女はある事に集中していた。
ふて腐れた様に呟く青年は女の肩に頭を預け、静かに目を瞑る。
いつもの事だからか、肩に掛かる重みも気にせず黙々と作業を続ける女。
相手にされない青年はゆっくりと意識を手放した。
あまりにも集中していた為、女は青年が眠りに就いた事にも気付かず、再び数時間が経過してしまっていた。
「これで…、よしっ!!やっと出来た…て、嘘もうこんな時間!?」
「すぅ…、すぅ…」
「え…」
漸く作業を終えた女は時計を確認し、かなりの時間を費やして居た事に気付くと同時に、隣から聞こえる寝息に視線を移し、青年が眠っている事に小さく息を吐く。
それから、そっと青年の頭を自分の膝の上に下ろして、髪を梳く様に頭を撫でた。
「ごめんなさいね…。夢中になるといつもこうなんだから…」
呟きながら、先程終えたばかりの物へ視線を移す。
「貴方の為にと思って、頑張っていたのだけれど…」
雑ではあるが、何とか縫い付けられている、青年のYシャツボタン。
縫い物が苦手な為、始めたは良いが、つい時間が掛かってしまったのだ。
「貴方に、喜んで欲しかっただけなのにね…」
寂しそうに呟くと、膝の上で眠る青年にそっと顔を近付けて、額に唇を落とした。
「ん~…、ん?あれ、終わったの?」
「えぇ…」
「そっか…、やっと俺の事見てくれるね!!」
「ごめんなさいね、一人にしてしまって…」
「まぁ…、これから俺の事だけ見ててくれるなら、許して上げなくも無いかな?」
「…ありがとう。でも、大丈夫よ」
「?」
「私は、貴方しか見てないから…。あの日から、ずっとね」
そう話す女は、とても優しい瞳で青年を見つめるのだった。
終わり
最初のコメントを投稿しよう!