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梅の花言葉(♀→←♀)
梅の花言葉【忍耐】
この日、私は仕事の疲れもあってか、休日だと言うのに何もする気が起きなかった。
何とか掃除などは終わらせたものの食事をする気にはなれず、ソファーに横になる。
(もう、お昼なのね…。)
しばらくして気付くと、朝早く起きた筈なのに時計は既に12時を回っていて、少し休んでいたからか小腹も空いてきていた。
冷蔵庫の中に何があったかを思い返しながら何を食べようかと考えていたが、やはり何も浮かばず、軽く目を閉じる。
(駄目だこりゃ…。)
その時、不意にインターホンが鳴り、誰かが訪ねて来た事を告げた。
“ピンポーン”
「誰かしら?何も頼んで無いし…。」
“ピンポーン”
「誰とも約束してない。今は出たく無いし、第一、面倒なのよね…。………居留守、使おうかしら…。」
“ピンポーン”
「うん、疲れてるしね。私は居ませんよ~。」
“ピンポーン、ピンポーン”
「………。」
“ピンポン、ピンポーン”
「………。」
“ピンポ、ピンポーン”
「…~っさいわね!」
一人で色々呟きながらソファーに突っ伏し、来てくれた人には申し訳無いと思いつつ、私は気配を消して息を潜めた。
その内去って行くだろうと考えていたものの、相手は中々去ろうとせず、呼び鈴の鳴らし方にも段々と苛立ちが募り始める。
小さく悪態をつきながら、尚も私は居留守を続けた。
けれどその時、不意に外から聞こえて来た声に思考は停止し、同時に怠くて動かなかった体はふらふらと玄関へ向かっていた。
鍵を開け、高鳴る心臓を抑えながらも、先程聞こえた声の主を見る為にドアを開け様とした。
その時、閉じていたドアは勢い良く開き、同僚が顔を出す。
「も~、居留守使わないでよ!!」
「え…、あ、ご免なさい…。」
「まあ、開けてくれたから許す!」
「…どうして貴女が?」
「あれ、休み被ってたの気付かなかった?」
「そ、そうじゃなくて…、どうして貴女が私の家に?」
「遊びに来ちゃった!!」
話しながら、彼女は手土産を差し出して来て、駄目だったかなと聞いて来たが、私は呆けながらも彼女を中へと通した。
パアッと表情を明るくし、テンション高くお邪魔しますと部屋の中へ入って来た彼女。
そんな彼女に、私の顔に熱が集まっていた。
ほぼ同時期に今の会社に入社した私と彼女。
そうは言っても互いに仕事を覚えるのに忙しく、始めは話すらした事は無かった。
ある日、初めて話した彼女の前向きさと明るさ、懐っこさに私は心を奪われた。
漸く仕事に慣れはじめてからは話す機会も何度かあって、私達は仲良くなっていった。
けれど、仲良くなるにつれて、私は更に彼女の事を意識する様になっていて、最近はむやみやたらと話し掛ける事は出来無かったのだ。
「部屋、綺麗だね~!」
「そうでも無いわ…。…それより、どうして家に…?」
「えぇとね…。あたし、前からあなたと遊びたいなと思ってて、休みが被るのって珍しいから…。」
照れた様に笑う彼女に胸が高鳴り、思わず顔を逸らしていた。
「…でも、それならどうして電話かメールで連絡してくれなかったの?」
「まだ、交換してないじゃない…。」
「え…、あっ、そ、そうだったかしら…。」
「そうだよ~。だから、はい!」
携帯を差し出して来た彼女に一瞬呆けたが、理由を察して、私も慌てて携帯を手にした。
私達は携帯の番号とアドレスを交換し、互いに登録して、間違いが無いかを確認する為にメールを送りあった。
彼女はとても楽しそうで、私のメールを保存すると言って、フォルダ分けした私のメールを見せてくれた。
「良かった~。あなたとやっとメール交換出来た!!」
「え?」
「何度も聞こうと思ってたんだけど、タイミングが合わなくて…。」
「そう…なの…?」
「…本当の本当はね、今日来た理由は休みの日でも、あなたに会いたかったからなんだ…。」
困った様に微笑んだ彼女が放った言葉に、私の思考は止まった。
そんな私に彼女は、家に来た時からの態度について謝りながら、ずっとメールを交換したかった事や私自身について知りたかった事、もっと仲良くなりたかった事などを教えてくれた。
「実はね~、昨日から寝てないんだ…。」
「どうして?」
「同じ日に休みだって知ってから、絶対その日はあなたの家に行くって決めてて、でも理由なんて浮かばなくてね…。昨日の夜からずっと理由を考えてたんだ…。」
「でも、来た時は遊びたいからって…。」
「あれはね~…、それしか、浮かばなく…て…。」
「どうしたの?」
「ご免なさい…、寝かして!!」
「え…、ええ!?」
言い切ると同時に突然横たわり、私の膝の上に頭を乗せて寝息をたてる彼女に頭が着いて行かず、それでも顔が熱くなるのを感じた。
「すぅ…、すぅ…。」
「…遊びに来たんじゃ無かったの…?」
(でもこの状況は、ちょっと辛いわね…。)
終わり
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