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夕食後、コーヒーを飲みながらふたりでのんびりとした時間を過ごしていた。
「ねえ、光佑」
「んー?」
「殺すか、殺されるかならどっち? 俺を殺すか、俺に殺されるかの二択で選んで」
和やかさの欠片もない質問に、思わず笑ってしまう。いきなり物騒なこと言うな、こいつ。
まあいいか、と考えてみる。
橙磨を殺すか、橙磨に殺されるか。そのふたつしかなかったらオレはどっちにするだろう。
即答で、橙磨を殺すことなんてできない。つまりは、殺される方を選ぶってことになる。
橙磨がいなくなった未来を生きていく意味はどこにもない。
こいつがいなくなってしまうくらいならば、殺されたほうがずっといい。
それも橙磨に殺されるというなら、存外悪くないのかも。
もし、オレのいない未来で他の誰かと笑いあっていてもいい。
死んだオレがそれを見ることはないわけだし。
「オレは殺されるほうを選ぶかな。橙磨は? どっち?」
「決まってんじゃん」
にっこり。橙磨の綺麗で薄めの唇が弧を描く。
「殺すよ。俺が死んだ後、光佑がひとりで生きていくなんて考えられない。光佑が誰かと生きる未来があるとしたら、そんなの絶対に許せない」
そう言うだろうと思った。
「……とか言ってみたけど、殺さないよ。大好きな光佑が死んだ後なんて、つまらないし。でも、二択しかなかったら迷わず俺に殺されてね」
「うん。いーよ」
うなずくと、橙磨は目を細めて笑った。
「……さて、洗い物しよう! 風呂沸かそう!」
「えぇ、この話のあとで? もうちょっと休みたい。オレはゲームする」
「ダメ。そんなこと言って絶対そのまま寝るでしょ」
ほら、立って。差しのべられた手に、自分のそれを重ねる。
殺すか、殺されるか。お前とだったら、もうひとつ選択肢があるかな。
全体重をかけてやると、橙磨は「わっ」と声をあげて前のめりに倒れた。それを受け止めたものの、ちょっと痛い。
顔を上げた橙磨も痛いと言わんばかりの目をしていた。それはスルーして、口を開く。
「ふたりで死ぬのも、悪くないかも」
「さっきの話の続き? 選択肢三つ目だね。いいよ、光佑と一緒なら。そのかわり、絶対一緒に死んでね。裏切ったら殺すからね」
「ははは。うん。仕方ないから一緒でもいーよ」
「素直じゃないなあ。それじゃあ、一緒に死ぬ約束をしたところで動こうね」
休ませてくれないのかよ。今、ちょっといい流れだっただろ。
心の中でツッコんでみても、もちろん橙磨には伝わらず。
先に立ち上がって、さっきと同じように手を差しのべてくる。
その手に触れると、今度は力強く引き上げられた。
いつか本当にふたりで死ねたなら、それはどんなにしあわせなんだろう。
ぼんやりとそう思いながら、橙磨の手をきゅっと握りしめた。ふっ、と頬を緩めた橙磨は、なぜだかとても満足そうにしていた。
END
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