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闇の紳士の残酷ショー
「おい、起きろ。」
春子は老人の声に眼を覚ますと、窓もない真っ白な部屋で高級そうな大きな椅子に座っていた。縛られていないし、服は脱がされていないので、安心する。老人の姿を探したが、どこにもいない。
「探しても無駄じゃ。わしは、監視カメラでおまえを見ておる。では、試験を説明しよう。いたって、簡単じゃ。おまえの前のガラスはマジックミラーになっており、あちらからおまえは見えないが、おまえからはあちらが見える。今から、あちらの部屋で起こることを、おまえは椅子に座って只見ているだけでよい。椅子から立ち上がったり、声を出したりしたら、不合格じゃ。」
「不合格になったら、どうなるんですか。」
春子は只ならぬ気配に脅えながらも、勇気を振り絞って聞いた。
「決まっておる。おまえの臓器をもらう。麻酔なしで生きながらじゃ。おっと、もう試験を始まっておる。今更、降りることはできぬ。この監視カメラからの動画は全世界にいるわしの主催する闇の紳士の会の連中に見られておるからのう。せいぜい、楽しませておくれ。イヒヒヒ~。」
『この悪魔め。』
春子は老人に延髄蹴りをくらわしたくなるほど、腹が立ったが、じっと我慢した。AV映画に強制的に出演させられるかなって軽く考えていた自分の愚かさえを呪う。
試験とは名ばかりの残酷ショーは、もうはじまっているに違いない。
やはり、ドアが開くと、完全武装の戦闘服の三人の男にどこからか数人の老若男女が目隠しと猿轡をかまされ、両手を縛られて連れられてきた。
どことなく、見覚えがあるのは気のせいか・・・・。
その目隠しと猿轡が外され、全員の顔がさらされた瞬間、春子の全身の血が凍った。
孤児院の仲間だったのである。院長や食堂のオバチャンもいる。
「おい、おまえら。いったい、何の真似だ。警察に言うぞ。」
勝気な食堂のオバちゃんが吠えた瞬間、額の真ん中に赤い花が咲いたように見えた。そして、食堂のオバチャンが静かに倒れた横で、戦闘服の男の一人が持つ拳銃から硝煙が静かに立ち昇っている。床に、赤い血の海がジワジワと広がる。
「キャア~。」「怖いよ~。」「エ~ン、エ~ン。」「助けて。」
そのまま、気を失った者、小便を垂れ流す者もいた。
まさに、阿鼻叫喚である。
もう一人の戦闘服の男は、笑いながら大型のナイフを無造作に振りかざし、次の犠牲者を選んでいる。
その時、信じられないことが起こった。
「おまえら、その子たちに手を出すな。俺はどうなってもいい。この子たちを助けてやってくれ。お願いだ。どうか、この通り。」
あの鬼より怖い院長が子どもたちのために土下座をするではないか。
春子は眼を疑ったが、戦闘服の男たちは顔を見合し、肩を叩き合い、大声で笑う。そして、リーダーらしい男の命令で、一人が院長の髪をつかみ立たせ、もう一人がその喉元にナイフを突き立てようとしたその瞬間、春子は立ち上がり、椅子を振り上げ、マジックミラーに叩きつけた。
考えるより先に、体が動いていたのだ。いや、何も考えていない。
ガツン。ガシャン。ガチャン。
一発では割れないが、戦闘服の男たちの動きが止まったのは確かだ。
二発、三発目にやっとヒビが入り、マジックミラーの破片がパラパラと落ち、あちらからもこちらが見えた。
「春子。」「春ちゃん。」「春姉。」「お姉ちゃん。」
助けを求める仲間の声に、春子は渾身の力を振り絞り、椅子でマジックミラーを叩き割り、あちらの部屋に転げ込んだ。
「この野郎。よくも私の仲間を。」
激しい怒りに燃えた春子が椅子を振り上げ、戦闘服の男たちに襲いかかろうとした。当然、戦闘服の男たちは拳銃を構える。流石、プロ。構えが堂に入っている。
バーン
何故か、銃弾がスローモーションで自分の心臓目掛けて飛んでくるのが見える。春子が死を覚悟したその瞬間、またもや不思議なことに強烈な睡魔に襲われ、深い眠りに落ちた。
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