イジメの始まり

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イジメの始まり

 箱庭の季節になった。学校帰りに、母は私とキヨをお花屋さんに連れて行ってくれた。 「好きな草花を探してごらん」 と母は言った。  キヨは苔みたいな植物ばかり選んだ。私は迷って何一つ選べなかった。    次の日、学校に行くと 「コケオだ!コケオが来たー!」 と何人かの男の子がキヨに(はや)したてた。  私は休み時間にトイレに行ったら、トイレの前に並んでいた女の子たち何人かがワザとぶつかって来た。私は転んだ。どのトイレも空いていなかったが、休み時間が終わるチャイムが鳴ると、みんな申し合わせたようにトイレから出て来て教室に走って行った。  私はイジメられているらしいことを認識した。面白くないのでトイレに座って、しばらくジーッとしていた。5分も経ったのだろうか。 「メイ!どこ?」 キヨの声がした。 「キヨ?探しに来てくれたの?」  私はトイレから出ると、それまで堪えていた気持ちがあふれ、キヨにすがりついて泣いた。 「イジメてくるような奴らと、友だちにならなければいい。」 「転ばされたら痛いけど」 私はズボンを()くって転んだ時に擦りむいた膝をキヨに見せた。 「転ばされたの?ひどいな!」  体育の時間、ドッチボールだった。私はボールが怖くて受け止められない。キヨと同じグループの時は、キヨが私をかばってくれたが、今日はキヨは違うグループだった。きっとイジメられる、ガンガンあてられる、と覚悟した。  でも、同じグループにいたオキニィが私をガードしてくれた。嬉しかったけど、それはそれでイジメられる原因になると思った。 「ありがとう。この前はごめんね。」 体育の授業が終わった時、私はオキニィにお礼を言った。 「メイは謝ることない。また、いっしょに歌いたいな。」 「いっしょに歌おう!」 「いいの?」 私たちは『おさるのジョージ』のテーマソングを歌った。オキニィはヒップホップを上手に踊りながら手を打ったり足で床を打ったりしてリズムをとった。すごい才能だと思う。  オキニィの歌と踊りが終わった時、キヨとエリックが拍手した。 「オキニィ、メイを守ってくれてありがとう。この前はゴメン。」 キヨがテレたように笑いながら言った。 「気にするな。僕も悪かった。今度はエリックもいっしょに楽しもうぜ!」 オキニィは上靴で床を打ち鳴らし、もう一度『おさるのジョージ』を歌いながら踊り出す。私たちは、みんなで歌って足や手でリズムを打った。エリックは即興で口笛の装飾音を入れた。  帰る時、キヨはエリックに言った。 「メイをよろしく。メイなら、きっといい伴奏できると思うけど。もし、うまくいかない時は僕に言って。メイを泣かせたくないんだ。」    エリックは笑って大人みたいに言った。 「キヨのピアノはうま過ぎるから。バイオリンが目立たなくなってしまう。ふふふっ!メイのピアノがヘタだと言ってるんじゃないよ。メイがキヨのメロディーに自然に合わせるリズム感に僕は感動したんだ。キヨには、分かるだろう?僕が考えたこと。」 「分かるよ。僕はメイといっしょに演奏してると天国にいる気分だから。」  私は少し寂しい気分だった。塩崎先生は、とても上手にピアノを弾けるし、大人だから何でも1人でできる。私が手伝えることは何もない。キヨやエリックが喜んでくれるなら、それはそれで嬉しいけど。私は何か不本意な気持ちだった。  私は自分の弱さ、自分の愚かさ、自分の無力さが情け無かった。ピアノも勉強も、どんなことも頑張って、早く1人で何でもできる大人になりたいと思った。
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