三月十六日(水) 朝 カフェ・エナック

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 こめかみの辺りが、強く脈を打った。苛立ちなのか、戸惑いなのか、よく分からない感情に追い立てられるように、志穂は語気を強めた。 「どういうことですか?確かに、一部の土地はまだ買い取りが済んでないけど、他の土地は私たちが売買契約を……」 「さらに、別の会社に売ってたんだよ。アンタが知らないところで。そういうテクニックを使うと、アンタらの会社は売買代金を一部抜くことができる。そうやって儲けを出すことで、ウィンウィンな取引が成立していたってわけ」 「……」  今一つ事態が呑み込めない。  そんな志穂を少し憐れむように堀江が見つめてくる。 「まあ簡単に言えば、だ。儲け話のおこぼれを恵んでもらったってところか」  溜息と共に言葉が吐き捨てられる。
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