三月十六日(水) 昼 栄月堂ブックセンター

12/13
前へ
/433ページ
次へ
 まったく不思議な話だが、クライアントになり得る立場の成島が、司法書士に気を遣っている。しかし、この自然発生の気持ちは簡単には消えそうにない。むしろ、ここでTN地所レジデンシャルとの接点を持ったら、褒められるんじゃないかという気持ちまで芽生えた。  ――白井先生もこういう感覚で藤石先生と一緒に仕事してるのかな。  成島は、出来る限り落ち着きを取り戻すと、津田に頭を下げた。 「……すみません、まさかこんな立派な会社の方の訪問を受けるとは思わなくて。それに私は祖父の所有地については専門家に相談をしようと考えておりましたが、会社の事業については初めて知ることばかりで……何しろ、祖父とは音信不通なもので。ただ、事業承継ともなると、私だけの問題に留まりません。祖父ともう一度連絡を取ってみます。母親にも聞いてみます」  あながち嘘ではない。咄嗟の割には上手く話を合わせられたのではないだろうか。
/433ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加