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 女は竹瀬山(たかぜやま)を目指していた。  もう神にすがる以外の道がなかったのだ。  干ばつ、飢饉、(いさか)い……。いよいよ死者も増え始め、女の暮らす村は存続の危機に晒されていた。  言い伝えによると、竹瀬山の神は気まぐれだという。  必ず願いを聞き届けてくれるわけではない。いや、聞き届けてくれることなどほぼ無いと言っていい。あまりの報われなさに、今や村では、古くからの信仰が潰えてしまったほどだ。  だが裏を返せば、全く聞き届けなかったとも伝わってはいない。女はそれに賭けることにし、ひっそりと村を抜け出した。  すっかり水量が減って小川のようになってしまった川の水を、竹筒に入るだけ入れて、女は歩いた。  どこまでも干上がった不毛の大地の先に、鈍く霞んだ緑色がこんもりと盛られているのが見える。  この干ばつが他人事であるかのように草木を茂らせているあの山こそが、竹瀬山だ。  秋分を過ぎたというのに未だ燦々と照りつける太陽が、容赦なく女の体力を奪う。口から注ぐ水よりも滲み出る汗のほうが明らかに多く、休もうにも荒れ果てた土地が広がるばかりで、木陰すらない。そもそも休んでいる暇などない。  とにかく足を前へ運んで竹瀬山へたどり着かなくては。  村には老若男女五百人ほどが暮らしている。皆の命の行く末は、ひとえにその足にかかっているのだ。
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