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 さらに山を深く入って行くと、不思議な場所に出た。  その一帯だけ木が生えておらず、背の低い小さな草だけが一面を埋め尽くしている。そこに、ぼこっと地面が隆起していて、人が通れるくらいの大きな穴が空いている――ちょうど隧道(トンネル)のように、大地の側面が向こう側へ抜けているのだった。  その奥から水音がすることに、女は気づいた。 「ここをくぐるのですか」 「はい。地面がぬかるんでいるので、滑らないように気をつけて」  女は頷き、牛に掴まりながら隧道の中へと入った。正面に見えている光は小さく、出口は思ったより先らしい。  ぴちょん、ぴちょん、と水の垂れる音が響き、粘土質の地面に足が沈み込む。牛はそれをものともせず、淡々と歩を進める。男は確かな足取りで女と牛を先導する。  じめついてひやりとした空気と見えない足元に不安が押し寄せたが、女は口を結んだまま、運を天に任せる思いで一歩一歩を踏み出した。  地面は次第に水溜まりのようになり、足の下がぱちゃぱちゃと鳴った。  暗闇を抜けた。  女は思わず天を仰いだ。鳥の羽音が深緑の木立を揺らす向こうに、青い空が透けていた。心地いい風が吹く。女は深く呼吸した。  視線を下ろすと、その木々を隔てたところに沢があり、水が潤沢に流れているのが見える。 「ああ、良かった。これで責務を果たせました。元気なまま連れてこられて、本当に良かった。ありがとうございます」 「さ、水辺へ下りましょう。私達も水を飲みましょう」  沢への道は緩やかな草むらで、牛は足取りも軽く進んで行った。その後を、二人は並んで歩いて行った。
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