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四
山を下りてきた女は、目の前に果てしなく広がる瑞々しい草原を見て、驚きと喜びで胸がいっぱいになった。
いったいこれはどうしたことだろう、私はずっと、悪い夢を見ていたのだろうか。夢を見たままここまで来てしまっていたのだろうかと、女は思った。
とにかく早く村へ戻らなければ。その気持ちだけが、先ほどから妙に女を駆り立てていた。
女ははやる足に任せて村へと歩を進めた。
空腹も喉の渇きも忘れて、ただひたすら村への道のりを急いだ。
集落に近づくと、ひび割れしかなかったはずの畑はきれいに耕され、畝が作られているのが見えた。
川では人々が釣りをしている。
女は釣り人に駆け寄って話しかけた。
「魚がいるのですか。干ばつはどうなったのです」
すると、釣り人は驚いた顔で女をまじまじと見た。
「あんた、いったいどこに居たんだい。おっかさんが心配しているから、早く家に帰っておやんなさい」
女は一刻も早く事の成りゆきを聞かせてもらいたかったが、それよりも家族に顔を見せるほうが先だと思い直し、住まいのある村の中心部へ走った。
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