4/4
21人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
 その夜は、いつものように家族七人で床についた。小さい妹が、久しぶりに帰って来た姉に甘えて、隣で眠った。その背中を撫でながら、女は眠れぬ夜を過ごしていた。  何かがおかしい。私は何か、大切なことを忘れているのではないか。その思いが何の根拠もなく女の胸に違和感を巡らせた。  村には雨が降った。草は芽吹き、人々は助け合って、安定した生活を取り戻すべく働いている。亡くなったまま放置されていた人々も、きちんと埋葬され、供養されている。  何も不足はない。むしろ足りすぎるくらいだ。  なのになぜ、女の心はこうも落ち着かないのか。  ひとつ、女は違和感の正体に気づく。  竹瀬山の中腹からここまで、あれほどの距離を歩いたというのに、女はさほどの疲れを感じていなかった。また、空腹も喉の渇きも、自ら意識することはなかった。食事を差し出されて初めて、何も食べていないことを思い出したのだ。  何かがおかしい。何かがおかしいはずだ。  答えが出ないまま、深夜を過ぎた頃、女は眠りについていた。  
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!