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「大切なものを取り戻すべく、ここに戻って参りました」  女の頬を涙がすべり落ちる。  男は驚いて、二歩、三歩、女に歩み寄る。 「覚えているのですか、私のことを」 「思い出しました。私は忘れてしまっていました。なぜ忘れてしまったのでしょう。私は自分が恥ずかしいです」 「いえ、あなたのせいではないのです。竹瀬山の隧道(トンネル)を戻れば、神や私と会った記憶は全て消えてしまいます。それがわかっていながら、私はあなたを止めることができませんでした。あなたの心の清らかさゆえの判断を、妨げるわけにはいかなかったのです。私は、あなたが再び戻ることはないと、覚悟をしていました。しかしあなたは戻って来てくれました。しかも、記憶まで自ら取り戻して――」  男は女の白く細い両手を取って、潤んだ瞳を覗き込んだ。 「改めて、ここで私と暮らしていただけますか」  女の瞳からは、返答に先んじて次々涙が零れていく。 「はい――」  二人は力強く抱き合って、互いを愛おしんだ。  
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