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 渇きと空腹と、両脚の疲労を押してどうにか竹瀬山の麓にたどり着いた時には、もう夕暮れ時が近づいていた。  初めて間近で見るその山は、色味を帯び始めた日の光を受けて神々しく輝いている。  女は圧倒された。  竹瀬山はこれまで村から遠目に見てきた印象より遥かに大きく、無数の樹木がその全貌を埋め尽くしていた。高く伸びた草で木々の根元は見えず、獣道すら見当たりそうもない。  果たして人間が踏み入ることはできるのだろうかと不安に思いながら、別世界のように緑がほこる景色をしばらく呆然と見つめたが、ここで足止めされているわけにはいかないことを思い出し、竹瀬山の周りを探ってみることにした。  竹瀬山周辺の大地には草が生えていた。ここの土には今も水が保有されているらしい。  女はその生命力溢れる草花をいくらかむしって、とにかく腹へと入れた。  食べ物を何も持って来なかったのは、持ち出せる状態になかったからだ。女の家族が保有する食糧はもはや限られており、一日二回、少量ずつ支度し、分け合って食べていた。  そんな中で、人知れず持ち出して食せるような余り物はなかった。だが、今になってみれば、生米でも、小さな芋一つでも、掴んで来れば良かったのだ。  竹筒の水は、もう残り少なくなっていた。  きっと山の中に入れば、水流や木の実が見つかるだろう。それまではなんとか、倒れない程度に食いつながなければならない。
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