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 竹瀬山の淵に沿って草原をしばらく歩くと、一頭の黒牛が地面にへたり込んでいた。  女は驚き、飛びかかられては敵わないと身構えた。だがすぐに牛が衰弱しているらしいと気づき、勇気を出してそっと近づいた。 「牛や、お辛いのですか」  牛はゆっくりと首を動かし、覚束ない目を女に向けた。  助けなければ、と女は思った。そして、腰に下げていた竹筒を掴んだ。 「ここに水が少しあります。さあ、これを飲んで」  女は残りの水を全て自分の手に注ぎ出し、牛に差し出した。牛はそれを、きれいに舐めとった。 「こんなところにいては、死を待つばかりです。さあお立ちなさい。共にこの山へ入りましょう」  牛は気乗りしない様子で辺りを見回したが、女に促されどうにか立ち上がった。女はその肩を撫でて励ましながら、竹瀬山の入口を求めて更に歩いた。  どこからともなく虫の声が聞こえている。時折、山のほうから鳥のはためく音が響く。  しばらく進んだところで、女はふと足を止めた。そして、つい可笑しくなって表情を緩めた。この山の神を、かつて人々は祀っていたのだから、道があるのは当たり前ではないかと気づいたのだ。  目の前には、やはり草が生い茂ってはいるものの、ちゃんと竹瀬山の中へと続く道が切り開かれている。  いよいよ日も暮れかけて、山の中は薄暗く鬱蒼としていたが、女は牛を連れて、ついに竹瀬山へと踏み入った。  
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