21人が本棚に入れています
本棚に追加
二
さざ波のように押し寄せる細かく軽い葉音に揺られながら、女は目を覚ました。
ちらちらと瞬きながら降ってくる光に一瞬目を細めたが、ふと手に触った生き物の感触に、はっと起き上がった。
そこには、昨日の黒牛が横たわっている。
昨夜、牛を連れて竹瀬山に入った女は、少しでも光があるうちに食べ物と水を探そうと、注意深く辺りを見回しながら歩いていった。
しかし何も見つからないまま、山の中は闇に包まれてしまい、困り果てたところで、牛が座り込んで動かなくなってしまった。体力が尽きてしまったのだろう。
やはり無理を強いて歩かせるべきではなかったのか。あの場に水は無かったものの、食糧となる草はふんだんにあったのだから、牛自身の判断に任せたほうが、命を延ばすことができたかもしれない。
そう後悔したが、とにかくここまで来てしまった以上は仕方がないので、女は牛と共にその場で眠ることにしたのだった。
そのことを思い出し、女は慌てて牛をさすってみた。まさか、死んでしまったのではあるまいか。
すると、牛はゆっくりと目を開けた。無事に生きていたらしい。
「牛や、私が水を探して来ますから、あなたはここで待っていなさい。きっと持ち帰りますから」
そう言って立ち上がり、さて行こうと前を向くと、思いも寄らない景色が目に入った。
昨夜は真っ暗になっていたから、自分がこんな場所にいるとは、全く知らなかったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!