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 女は迷ったが、せっかくの親切を無碍に断るのもと思い、おずおずとそれらを受け取った。 「ありがとうございます。それでは、私はこの柘榴で充分潤せますから、水は牛に与えましょう」 「あなたがそれで良いなら、構いませんよ」  女は牛に水を飲ませた。昨日と違い、たっぷりの水が飲めたからか、牛はいくらか元気を取り戻したようだった。そして、のそのそと起き上がると、辺りの草を食べ始めた。  女はほっとして、自分も男にもらった柘榴を食べ始めた。柘榴の甘酸っぱさと豊富な水分が体に染みていく。女は生き返るような気持ちだった。 「あなたは牛を水辺に連れゆくために、この山へ入ったのですか」  男が訪ねた。 「いえ、実は、この山の神にお願いに上がったのです。牛にはその途中で出会いました」 「お願いとは」 「私の村は、この山を下って行ったはるか先にあります。その一帯は長く日照り続きで、土地が干上がってしまっています。食糧も少なくなっていて、死者も出始めています。このままでは、滅ぶのも時間の問題です」 「では、村を救って欲しいと」 「はい。私の村の者達は、古来より竹瀬山の神を信仰していました。しかし、その神はたいそう気まぐれで、救われた試しがないと、今では誰も信じていません。ですが、もはや自分達の力ではどうにもならないのです。虫のいい話ではありますが、神におすがりするしか、ないのです」  男は表情を変えることなく女の話を聞き、そして尋ねた。 「それは、村の総意ですか」  聞かれて、女は少し俯いた。 「いえ……、いえ。私の独断です。村の皆は、もはや竹瀬山のことを思い出しもしていないでしょう。反対されるのを恐れ、父母に言い出すことすらできず、私はひっそりと村を抜け出して参りました」 「そうですか……」  いつの間にか、牛は再び地面に座り込んでいる。瞳にはずいぶん生気が戻ったようで、牛もまた女の話をじっと聞いているような、凛とした顔つきになっている。
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