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「では、あなたは村に雨を降らせてほしいと、干上がった大地を潤してほしいと願うのですね」
「そうですね……」
女は一応の返事をしながら、考え込む。
「……ただ、今はまだ少し、迷っています」
「迷っている?」
「本当に、その願いで正しいのかと」
それを聞いて、男は初めて微笑を見せた。
「あなたは面白い方ですね。さあ、牛も腹を満たしたようですし、水辺までご案内しましょう」
牛が元気を取り戻したので一緒に連れて行くことにし、二人と一頭は竹林の間を道なりに進んで行った。
一晩よく眠り、柘榴を食べさせてもらったおかげか、女もずいぶんと体が軽くなっているように感じていた。
竹林を抜けると、苔むした大木が不規則に並ぶ森へと入っていった。
道は勾配がきつくなってきていた。時折男に手を引かれると、女は頬を染め、その手を頼りに竹瀬山を登って行った。
地面は少し湿り気を増し、鳥の声は軽快で絶え間がない。そろそろ水辺が近いのではないかと女は思った。
「少し休憩しましょうか」
と男が言い、地面に這い出した木の根の上に、二人はそれぞれ座った。牛は立ったままのんびりと辺りを見回している。
「まだ遠いのですか?」
「そう遠くはありません。この後は勾配が緩やかになります」
男の言葉に、女はほっとした。
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