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卒業式の日にフラれたボクが、高校でモテようとして頑張ったら何故か男に言い寄られるようになった件について
通いなれたこの学校も今日で最後だ。
中学校の3年間、嫌な事もたくさんあった。
けどそれ以上に楽しいこともいっぱいあった。
そんな中、いつもアキラ君は傍にいてくれた。
笑っていてくれた。助けてくれた、安心させてくれた、ずっと守ってくれていた。
気が付いたら好きになっていた。
好きにならないわけがなかった。
最初は傍にいるだけでいいと思っていたけど、ついにお別れの時が来てしまう。
卒業式。別れの日。
アキラ君とは高校は離れ離れになってしまう。
だから、その前にこの溢れる気持ちを伝えておきたい。
卒業式が終わって二人でいつもみたいに一緒に帰る途中で公園に寄ってそこで想いを伝えよう。
例え、ダメだったとしても…。
「ユキちゃん…ゴメン。ユキちゃんとは付き合えないよ」
「え…な、なんで?ボクにどこか悪いところがあった!?
あるんだったら言って!直すから!それでアキラ君好みになるから!!」
「いや…っていうかさ…
ワタシよりも可愛い男はちょっと…」
( ゚Д゚)?
「いや、ユキちゃん。なんでキョトンとした顔してんのさ!」
自己紹介が遅れたけど、ボクは伊桜幸臣(いざくら ゆきおみ)。あだ名はユキちゃん。
そしてボクの目の前の女の子の名前は飯塚アキラ。ボーイッシュで格好いい女の子だ。
ボクたちは幼馴染で、アキラ君は子供のころから活発でよく「女のこっぽい」と言われて虐められていたボクを守ってくれていた。
ガキ大将に「ユキのまつ毛って長いよな」とか言われたり、その取り巻きに「ユキの手、すごい綺麗!」ってずっと虐められてたんだ。
ボクは身長も低いし華奢だから初めて会う人からは必ず女の子に間違われてしまって…男子トイレに入ったときは大騒ぎになったりもした。
体育の時間だってボクが着替えようとすると、みんな後ろを向いてボクを無視するし…。
だからボクはアキラ君に憧れた。
アキラ君はボクにとって格好良くてスーパーヒーローで…。
なのに…。
「ユキちゃんの隣を歩くとさ…なんか自分が惨めになるんだよね」
「そ、そんなことないよ!」
「いや、あるんだよ?二人で歩いてるときにさ、すれ違う男子たちは皆ユキちゃんのことを見てるの知ってる?
女の私より、男のユキちゃんに見とれてるんだよ?」
「アキラ君のほうが恰好いいのに!」
「とにかく!ワタシはユキちゃんとは付き合えない!ゴメン!」
「う…うわ~~ん!」
ボクはショックで思わず走り去ってしまった。
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「ア~キラ~見てたよ~」
げ、ミッチ!見てたんだ!?
木の陰から仲のいいミッチがニヤニヤしながら現れた。
「何かユキちゃんがソワソワしてたからさ~、気になっちゃって。でも勿体ないよ~良かったの?フっちゃって」
「いいのよ」
「じゃ~私がユキちゃんをもらっちゃおうかな~」
「それはダメ!」
「何でよ。いいじゃん、アキラはフったんだし、もう関係ないよね?」
「それでも!いい?私はね…
男に言い寄られてビクビクしながら涙目で怯えてるユキちゃんが見たいの!
最初はイヤイヤいいながらも言い寄られて最後には流されちゃうユキちゃん萌えなのよ!
女とくっつくユキちゃんなんて認めない!!」
「うわぁ…アキラァ…腐ってるなぁ…業が深いぞ…」
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そして
新しい季節が始まった。
真新しい学生服に身を包む。
まだ新しい服の匂いだ。
カッターシャツはまだ若干固く、襟の部分が頬にあたるとちょっとだけ痛い。
これから身長がのびるだろうと期待して、ちょっと大きめの学生服。
だから袖が若干、萌え袖?みたいになっている。
鏡を見て身だしなみを整える。
寝ぐせはついてないかな?
お母さんが買ってくれたLED付きの三面鏡で後頭部もチェック。
前まではアキラ君が色々直してくれたけど、もう頼っちゃいけない。
そもそもアキラ君は私立の女子高、ボクはちょっと遠くにある共学の公立高校に進学したのだ。
朝の通学時間だって違うから、迎えに来てくれなんて言えない。
ん~春とはいえ、まだ少し寒いな。
今年は乾燥が酷いのでちゃんと朝はお肌のケアをちゃんとしておかないと。
洗顔後には勿論、化粧水。コットンにしっかり染み込ませしっかり肌に水分をチャージさせていく。
さらにローションマスクでお肌の隅々までしかり水分を浸透させていく。
こうすることで肌に潤いを与え、その後に使う化粧水の浸透も良くするのだ。
お次はジェル化粧水で顔のマッサージ。
血行を良くするために指先でしっかり、血を巡らしていく。
これでむくみも解消だ。
あとは保湿クリームで水分をしっかりキープ!
アキラ君にはフラれてしまったのは悲しいけど、高校ではボクの事を知ってる人はいない。
だから、ちゃんとファッションや身だしなみに気を付けて新しい恋を探すんだ。
そして、アキラ君に「いい男になったわね」って言わせてやる!
ボクはよりイイ男になる為に、ギラギラとした瞳で毎朝のスキンケアを完了させたのだった。
「あら、ユキちゃん。今日から高校だったっけ~。早いわねぇ」
一番上のお姉ちゃんがモソモソ起きてきた。
「あ、ヒサコ姉ちゃん!おはよう!」
伊桜寿子(いざくら ひさこ)。ボクの一番上のお姉ちゃんだ。
大学を卒業して、今は小説家をしているとっても素敵な、ボクの大好きなお姉ちゃんだ。
ボクがモテるために色々アドバイスをしてくれているとっても優しいお姉ちゃんで、自慢のお姉ちゃんなんだ。
でも、心配な事もある。ヒサコ姉ちゃんは体が凄く弱いんだ。
あんまり外に出て運動しないし、食事も好き嫌いが多い。
それに何より、よく出血するのだ。
鼻から。
ちなみにアキラ君とヒサコ姉ちゃんはとっても仲良しだ。
「そういえば、ユキちゃん~聞いたよ?アキラちゃんにフラれちゃったんだって?」
ギクッ!アキラ君、もしかしてヒサコ姉ちゃんに喋っちゃったのか?
「うん、でもボク決めたんだ。高校になったらアキラちゃんが悔しがるようないい男になるんだ!」
「その意気よ!ユキちゃん頑張れ!その為には…毎朝晩のスキンケアとか、あとエステ通いもして美容に気をつけなきゃね!」
「うん!」
…あれ?ヒココ姉ちゃん?
「ヒサコ姉ちゃん鼻から血が出てるよ!」
「ああ、いつもの事だからいいのよ?オホホホ。…アキラちゃん、グッジョブだわ。流石、我が同士」
「ん?何か言った?」
「ん~ん、何でもないわよ、オホホホ。さぁ、もう出ないと遅れちゃうわよ?初日から遅刻なんてしてたら良い男にはなれないわよ」
「あ、いっけない!じゃ~行ってくるね!」
ボクは洗面台を飛び出して玄関に向かう。
玄関前にすでに用意していたカバンを手に取り、玄関を勢い良く開けた。
朝の陽ざしは温かいが、まだ肌に当たる風は少し寒い。
ボクは希望に満ちた光が溢れる世界へと飛び出したのだった。
「オホホ。ユキちゃん、我が弟ながら今日も捗るわぁ。いい小説のネタゲットだわぁ…オホホ」
後ろから何だかヒサコ姉ちゃんの声が聞こえたけど、よく聞こえなかったし、まぁいっか。
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新しく始まった高校生活。
モテるためにボクは頑張った。
まず人気者になる為にクラスの皆、男女関係なく分け隔てなく話しかけるようにした。
クラスの委員長にも立候補したし、勉強も頑張った。
部活だってサッカー部に入った、マネージャーとして。
みんなの推薦で生徒会にも入った。生徒会長とも仲良くしてもらっている。
ボクはモテるために相当頑張った。
毎朝晩のスキンケアは当然怠らなかった。
食事のバランスも栄養を考え、タンパク質、ビタミンなど偏らないように摂取するため毎朝お弁当も作っている。
ついでに好き嫌いの多いヒサコ姉ちゃんの分も作ったら、鼻から出血していた。
心配だなぁ。
学校までちゃんと正しい姿勢で歩き、適度な運動も心掛けた。
腹部を中心に体幹を常に意識するようにして胸を立てる事。これだけでも立ち振る舞いが随分違って見えてくる。
自分磨きも勿論欠かさない。見た目の格好良さは心から。
汚い言葉を使うと下品に見えてしまうので、ボクの求める格好いいとは程遠い。
こんな努力をした結果…。
「おい、ユキ…困ったことがあったら俺に言え…。
何があっても助けてやっからよ…」
「薫君に絡まれるって事が、困った事なんじゃないの~?ねぇユキっち!」
「まったく、薫も光希も煩いですよ。ユキ君が困っているじゃないか」
「なんだと?聖…この真面目眼鏡が」
昼食の時間、ボクは三人が言い合いを始めているその真ん中でお弁当を広げていた。
クラスの問題児三人がボクの机を囲むようにして昼食をとっている。
何でこんなことになってるんだろう…。
周りの女子に助けを求めようと視線をやると
「はぁ~クラスのイケメン三人が美少年を取り合ってるわぁ~眼福眼福」
「…尊い…このクラスでよかった…」
「捗るわぁ」
「カップリング的にはヘタレ攻めのユキ×カオでしょ?」
「同士!」
「ハッ!あんたバカァ?王道はヘタレ攻めのユキ×コウの一択よ」
「…アホねぇ、王道はヒジ×ユキ。異論は認めない」
「「「…」」」
「決着をつける時が来たようね」
「一体、何が始まるんです?」
「大惨事、ユキ受け大戦だ」
「ユキ攻めだろうが、オラァ!」
何やら難しい話をしている。
一体何の話をしているんだろうか。
とにかく助けは期待できないらしい。
目の前にいる三人はこのクラスの問題児だ。
ちょっと見た目の怖い髪の長い人は梅木薫(うめき かおる)。
中学校の頃は暴れん坊で手を付けられなかったらしい。このあたりの中学校を締めていたとかなんとか。
話すようになったきっかけは出席番号でボクのすぐ後ろの席に座ったことだ。
怖そうな見た目と喧嘩っ早いのに反して、可愛い動物が好きで一緒に迷子の猫探しをした時から仲良くしてくれている。
中学校の時の男子みたいにボクを虐めたりせず、いろんな事から守ってくれようとする。
本当はいい人なんだ。
次はその薫君を笑っている鶴竹光希(つるたけ こうき)。
クラスのお調子者でいつもふざけている。
中学校ではサッカーのクラブチームのエースだったそうで、高校でもボクと同じサッカー部に入っている。
茶髪で一見すると軽薄な印象を受ける彼だけど、複雑な家庭事情があってそのように振舞うようになってしまったんだ。
話すようになったのは同じサッカー部で、一年ながらにレギュラーになった彼が一人で泣いているのを偶然見てしまってからだ。
最後は落ち着いた知的な雰囲気の松風聖(まつかぜ ひじり)。
このあたりの中学校で一番の成績で、全国模試でもトップクラスの秀才だ。
短髪ながらも清潔感の漂う眼鏡のイケメンだが、少々皮肉屋っぽい一面もある。
意外に負けず嫌いだ。
ボクが委員長に立候補した時、彼も立候補していたので一騎打ちをする事になった。
結果はボクが数票差で勝ったけどその後、彼の強い希望で副委員長になった。
委員長の仕事にてんてこ舞いなボクをいつも助けてくれる。
三人とも凄くいい人なのに、何故かあんまり仲がいい訳じゃないみたいだ。
なんでだろう。
お互いをもっと知り合えば仲良くなれると思うんだけどなぁ。
とりあえず、今はこの三人の言い争いを止めなきゃね。ボクの優雅なお昼ご飯タイムの為に。
「も~三人とも静かにしてよ。落ち着いてご飯が食べられないじゃない。他の皆にも迷惑でしょ?」
「あ、ああ。すまないな、ユキ」
「ごっめんね~。俺のオカズちょっとあげるから許して!」
「君のオカズなんて、ユキ君はいらないと思うが。まぁ、騒がしかった事は謝ろう。すまなかったな、ユキ君」
「もう、まったく…何で三人とも仲良くできないのかなぁ。ほら、ボクのオカズ分けてあげるから仲良くだよ!」
ガタタタッ!!
ん?周りの女子がこっち見てるぞ?
何だろう…目が血走っているような気がするけど…。
「ユキのおかず…これ、確かユキの手作りだよな?」
「え!?ユキっちの、て、手作り…!?マジかよ…」
「いいのかい、ユキ君。僕たちなんかの為に…」
「その代わり、ちゃんと仲良くできる?」
物凄い勢いで頷く三人。首を痛めそうだなぁ…。
あと何か周りから「尊い…」やら「昇天した」やら女子の声が聞こえてくるけど何だろう。
「仲良くと言えば、おい、真面目眼鏡。文化祭のクラスの出し物結局どうなったんだ?」
「まったく、君は…ホームルームの時間も寝ているから、そんな事も覚えていないんだな。あと真面目眼鏡は止めろ」
「じゃーマジメガネ」
「プッ!薫君、それって真面目眼鏡からメを一つ抜いただけじゃ~ん。うける!」
「馬鹿か、君たちは…程度が低すぎる」
「いいから教えやがれ」
「喫茶店やるんだよ~俺っちたち男子は執事で女子はメイドさんにコスプレしてさ!」
そう、ボクたちのクラスの出し物はメイド&執事喫茶だ。
ボクも渋い執事になれるように頑張るぞ!
ん?何か今日は周りの女子がやけに騒がしいな。
「ショタ執事…イイネ!」
「いやいや、ユキちゃんはメイドでしょ…」
「4kのカメラ用意しなきゃ…」
「あ”あ”~どっちにしろ捗るんじゃぁ~」
も~さっきから女子、五月蠅いよ~!
「ちなみにさ…ユキはどっちやるんだ?」
「どっちやるって何さ!?ボクはどう考えたって執事でしょ!?」
「え~ユキっち、メイドやってみない?」
「嫌だよ!」
「いや、僕の計算によるとメイドの方が集客率が上がるんだが…」
「何の計算なの!?」
もう、この三人は決まってボクをからかう時だけチームワークが抜群になる。
もっといつもから仲良くしてくれればいいのにな。
「仲良く…か。それはちょっと難しいかもしれねぇな」
「んーそれに関しては、薫君に同意かな」
「だね。僕たちはその…」
「ライバルだからな」
「ライバルだもんね~」
「ライバルですから」
「何の!?」
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文化祭当日。一般公開の日。
あぁ、何でボクがこんな目に合うんだ。
ボクの予定では格好いい執事さんになって「お嬢様、お帰りなさいませ」「レアチーズケーキをご用意致しました」
とか格好いい事を言っているはずだったのに…。
「お帰りなさいませ~ご主人様」
「いいよ!ユキちゃん最高!!」
「萌えー!萌えー!萌……ふぅ」
なんでボクがメイドなんかやってるんだろう。
ちょうどウェイトレスの休憩時間、休憩室として用意された一角でボクは大きなため息をつく。
凄く恥ずかしい。アキラ君には絶対に見せられない姿だ。
うぅ、足元がスースーするよぅ。
前日にクラス投票を行った結果、38対1でボクの役職はメイドになってしまった。
しかも、コレってメイド服というよりどっちかっていうとゴスロリなのでは…。
「まぁいいじゃないか、ユキ君」
後ろからポンっとイケメン眼鏡執事となった聖君がボクの肩に手を置いた。
聖君も休憩に入ったみたいだ。
普段からイケメンなのに、執事服のせいでイケメン度合いが数段アップしている。
こんなに格好よくて頭もいいのに彼女がいない何て信じられないよ、全く。
ボクも今からでもこういうイケメンを目指してみるかな。
メガネの似合うインテリな感じ。うん、いいかも!
「おい、マジメガネ。気安くユキに触ってんじゃねぇよ」
「おやおや、不良執事のお出ましだ。まったく執事としての品位も何もないな、君は」
「んだと?」
薫君も真面目に執事として文化祭に参加している。
聖君と違って、ちょっと執事服を着崩してワイルドスタイルだ。
ちょっと燕尾服っぽい感じで腰のあたりにはチェーンが付いてる。
髪型も、いつもは片目が隠れる感じなんだけど、オールバックでとても似合っている。
うーん、こういうちょい悪ワイルドイケメンを目指すのもありだな。
「ん?どうしたユキ。そ、そんなに俺のほうをじっと見つめて…」
「オールバックにしてるのが珍しいんじゃな~い?ほら、いつも根暗そうな髪型だし!」
「あ?ぶっとばされてぇのか?」
模擬店の入り口で受付をしていた光希君がやってきた。
蝶ネクタイをした燕尾服型の短パン執事服。頭にはベレー帽っぽい黒い帽子を被っている。
ちょっと少年っぽさを残しつつも清潔感のある感じ。
うーん、ボクが真似したら小学生に間違えられる可能性があるから、こういう格好はできないな…。
こういう少年っぽい格好も似合う光希君がうらやましいな。
この三人を参考にしてボクもモテモテイケメンを目指そうとしているんだけどなかなか上手くいかない。
はぁ、神様って不公平だ。
イケメンは生まれつきイケメンで、ボクみたいなちんちくりんはどうやったってモテやしないのか。
「…いや、ユキはユキのままでいいんじゃないか?」
「そうそう、女の子がいなくたってさ~俺っちがいるじゃん」
「チャラ男は別にいなくいてもいいと思うが、ユキ君は僕がしっかり面倒をみてあげるから」
「だれがチャラ男だって~このフマジメガネ!」
「く、くくく。フマジメガネというよりムッツリ眼鏡だな」
「な…!だ、誰がムッツリだ!」
よ~し、こんなボクを励ましてくれる三人の為にも、頑張ってモテるために更に努力をしなくては!
「ユキ。一人でガッツポーズしているところ、悪いんだけどさちょっとその場で回転してくれねぇか?」
ん?こ、こうかな?
ボクは薫君に言われて何気なくその場でターンした。
…どうしたんだろう、みんな鼻を抑えてしゃがんでいるけど…。
「いや、なんでもないよ。ユキ君は気にしないでくれたまえ。
それよりもユキ君はモテたいといつも言っているが、ここは考え方を変えてみてはどうだろうか」
「ん?どういう事?」
「今はメイドの恰好をしているだろ?だから今日一日、女の子の気持ちで過ごしてみて、どういう男がモテるのか研究してみたらどうだい?」
「なるほど!」
それは盲点だった。
そうだよ、モテる為には女の子目線で考えないと!
視点を変えて考えたことは無かったので目から鱗だ。
よし、そうと決まれば本気でモテるために恥ずかしいけど今日は女の子として一日頑張ってみるか。
文化祭だし、女装してても「あ~クラスの出し物でやらされてるんだな。可哀そうに」って思ってもらえるだろうし。
「聖、グッジョブ」
「流石ヒジリ君だね、マジナイス」
あれ?なんで三人は固い握手を交わしているんだろうか。
周りで休憩している女子たちも凄い目でこっちを見てるし…。
「あ~じゃ~さ、ユキっち!…女の子の気持ちになるってことで…どんな、こ、こ、告白がときめくのか試してみない?」
ザワ…ザワ…
ん?休憩室の外からザワザワしている。
確かに模擬店なので他のクラスの人も教室に訪れているのでいつもよりは騒がしいのはわかるんだけど、お店が繁盛している感じのざわつきではない。
外からは「ユきちゃんに告白…!?」「録画…録画しなきゃ…!」「ヒサコの姉御に報告しなきゃ!」とか聞こえてくる。
ん?最後の声はアキラ君によく似てたけど、まさか来てるわけないよね。
「お、おう。光希。お前にしてはいい考えじゃないか」
「その意見にはボクも賛成だな。言われる側の気持ちを知ることも大切だと思うしね」
ん~そういうものなのかな。
けど何か男同士で、告白の練習って変じゃない?
「そ、そんな事ないっしょ~。ほら、ものは試しだよ。ね!」
ん~…じゃ~ちょっとだけ…。
「よ、よし。まずは俺から告白するぞ…。ゴホンッ」
「あ、薫君ずるい!まずこういうのは言い出した俺っちからじゃない!?」
「抜け駆けとは感心しないな。ここは公平に行くべきじゃないか?」
「うるせぇ、ここは特攻隊長の俺からだろうが。…じゃあ、行くぞ。
ユキ…聞いてくれ。お前と出会って俺は変わることが出来た。何も無かった俺を、お前が救ってくれたんだ…
お前のおかげで俺は人として生きることが出来るようになった。俺は…お前の事が…!」
この後、模擬店は急遽取り止めになった。
何故なら模擬店に入っていた全クラスメイト、他クラスの皆。偶然来ていたアキラ君が鼻血を出して倒れたからだ。
みんな恍惚とした表情で安らかな笑顔で倒れていたのは何故なんだろう。
クラスは血の海で、救急車を呼ぶくらいの大騒ぎになってしまった。
ん~結局女の子の気持ちが分からなかった。
やっぱボクは鈍感だから、どうやったらモテるのかよくわかんなかったけどこんな事で諦めたりしない。
大好きなヒサコ姉ちゃんと、この三人に協力してもらってボクは登り始めるんだ。
この果てしなく遠いモテモテ道を!
「ん?ユキ君。どうしたんだい?窓の外なんか眺めて」
「ん~なんでもないよ」
「そういえばユキっち、この近くに美味しいクレープ屋が出来たのって知ってる?」
「え!?初めて聞いたよ!」
「なら今から俺と一緒に行くか。このバカどもは置いといて」
「ちょっと薫君~?抜け駆けは無しじゃない?さすがの俺っちも怒るよ?」
「まったく君たちは…僕も行くからね?」
「ほら、三人とも喧嘩しないの!みんなで一緒に行こっ!」
穏やかな風が頬を撫でる。
ボクたちはこれからもこうやって騒がしく過ごしていくのだろう。
これからもずっと。
「おい、ユキ。何やってるんだ。置いていくぞ?」
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