マフラー大戦

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 約二時間前。  二学期の終業式を終えた俺は、友人の杉田と共にゲーセンで遊ぶべく、駅前の商店街に繰り出した。 「はー、やっぱ寒ぃなあ」 「お前でも寒いのか。馬鹿は鈍いから、コートもなしで平気なんだと思ってたが」  俺はふてぶてしく宣う杉田のマフラーを掴んだ。 「お前は着ぶくれしすぎなんだよ! ジジイか。寒がってるツレにその暖かそーなマフラーの一本も寄越しやがれ」  今日はクリスマスだし、ちょうどいいじゃねえかと引っ張ると、杉田は伸びるから止せと冷静に返してきた。 「ちょうどいいっていうなら、クリスマスセール中じゃないか。そこ」  指差された先には、小さな雑貨屋があった。“クリスマス限定大特価”とでかでかと書かれたポップの下に、見切り品らしい商品の入ったワゴンが置かれている。 「大特価って言われてもなあ…」  微妙な色と柄の靴下とか、とっくに放送の終わったヒーローの歯ブラシとか、クール系入浴剤とかが無造作に投げ込まれている。普通の値段じゃ売れそうにない半端物や売れ残りだというのが、パッと見で判るラインナップだ。それでも一応覗いてみると、 「あるじゃん、マフラー」  なんの変鉄もない、ニットのマフラーだ。色はグレー一色で、デザインもシンプル、手触りも悪くない。しかも、付いてるタグには思いきりのいい値段が書かれていた。 「二百円(税込)!? やっす!」 「買い、だな」  色が杉田のと同じで、パッと見お揃いみたいなのが気に入らないが、そこは目を瞑るしかない。  レジに持っていくと、なぜか店員は妙な顔をしたが、特売品なので包装はできないと言われただけだった。会計を済ませ、今すぐ使うからとタグを切ってもらう。鋏を入れた瞬間、ちょっとマフラーが震えたように見えたのは気のせいだろう。微妙に顔をひきつらせた店員に構わず店を出た。 「おおお、暖けえ」  早速巻いてみると、すぐに首元が暖まった。安いニットにありがちなチクチク感もなく、滑らかに首にフィットする。 「いーわ、これ」  俺は上機嫌でゲーセンに向かった。
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