1人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
「…っ、あー! また負けた!」
杉田は無駄に格闘ゲームが強く、俺は今日もまた惨敗している。
「成長してないな。隙だらけじゃないか」
「うるさい! マフラーが邪魔してんだよ」
完全に負け惜しみだったが、邪魔に思い始めていたのは本当だ。暖かい店内で戦いに没頭していたから、だいぶ暑くなってきている。俺はマフラーを取ろうと手をかけた。が、
「んん?」
「どうした」
「取れねえ」
「は?」
どういうわけか、マフラーは首にぴったり巻きついたまま離れない。引いても緩めようとしても駄目で、強力な接着剤で固めでもしたかのようにびくともしなかった。それどころか、
「ぬわっ!? うぐぐ…!」
更にぎゅっときつく巻きついて、俺の首を絞めてくる。まるで意思を持って外されまいと抵抗しているようだ。
「ぅがあ…っ!」
マフラーを掴んでもがく姿に、さすがの杉田も異変を感じ取ったらしい。向かいの対戦席から身を乗り出してきた。
「なんだ、負けて頭おかしくなったのか」
「ちが…!」
なんでそんなのんびりしてんだよ!? 友人の一大事だぞ!
勝手に絞まってくることを説明しようにも、喉を押さえられているせいで全然声が出ない。もがいてるうちに、椅子ごと床に転げた。結構派手な音がして、近くにいる客も騒ぎだす。でも、誰も助けようとはしてくれない。急に暴れだした危ない奴だとでも思ってんのか?
ヤバい、俺このまま死ぬかも。クリスマスに格安マフラーに殺されるなんて、どんな人生だよ。
「中村? おい、冗談はやめろ」
冗談で死にかけるか! うわ、だんだん目の前が暗くなってきた…。
「…ふざけんな」
遠退きかけた意識の中、やけにドスの効いた杉田の声が聞こえた。狭まっていく視界に、なにか鈍く光るものが見える。
───がちん!
一瞬ぎゅーっときつく首が絞まり、お花畑がちらっと見えた。が、次の瞬間、いきなり首が楽になった。
「……ぶはああっ!」
緩んだマフラーがほどかれ、急激に供給された酸素に激しく噎せる。なんか知らんが助かった。ゲホゲホ言いながら床を見ると、毛糸のマフラーがビチビチのたうっているではないか。
「ぎゃーっ!」
なにこれ、気持ち悪い!
他の客や従業員達も同意見だったらしく、さっさと逃げ出してしまった。杉田だけが険しい顔で床に膝をついている。見れば、メダル用のカップにマフラーを挟んで重ね、床に押さえつけているらしい。よくとっさにそんなことを思いついたもんだと感心した。
助けてもらっておいてなんだが、身体(?)の一部を挟まれてのたうち回るマフラーというシュールな図に全く動じてない友人が、ちょっとだけ怖いとも思った。
最初のコメントを投稿しよう!