マフラー大戦

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「…っ、あー! また負けた!」  杉田は無駄に格闘ゲームが強く、俺は今日もまた惨敗している。 「成長してないな。隙だらけじゃないか」 「うるさい! マフラーが邪魔してんだよ」  完全に負け惜しみだったが、邪魔に思い始めていたのは本当だ。暖かい店内で戦いに没頭していたから、だいぶ暑くなってきている。俺はマフラーを取ろうと手をかけた。が、 「んん?」 「どうした」 「取れねえ」 「は?」  どういうわけか、マフラーは首にぴったり巻きついたまま離れない。引いても緩めようとしても駄目で、強力な接着剤で固めでもしたかのようにびくともしなかった。それどころか、 「ぬわっ!? うぐぐ…!」  更にぎゅっときつく巻きついて、俺の首を絞めてくる。まるで意思を持って外されまいと抵抗しているようだ。 「ぅがあ…っ!」  マフラーを掴んでもがく姿に、さすがの杉田も異変を感じ取ったらしい。向かいの対戦席から身を乗り出してきた。 「なんだ、負けて頭おかしくなったのか」 「ちが…!」  なんでそんなのんびりしてんだよ!? 友人の一大事だぞ!  勝手に絞まってくることを説明しようにも、喉を押さえられているせいで全然声が出ない。もがいてるうちに、椅子ごと床に転げた。結構派手な音がして、近くにいる客も騒ぎだす。でも、誰も助けようとはしてくれない。急に暴れだした危ない奴だとでも思ってんのか?  ヤバい、俺このまま死ぬかも。クリスマスに格安マフラーに殺されるなんて、どんな人生だよ。 「中村? おい、冗談はやめろ」  冗談で死にかけるか! うわ、だんだん目の前が暗くなってきた…。 「…ふざけんな」  遠退きかけた意識の中、やけにドスの効いた杉田の声が聞こえた。狭まっていく視界に、なにか鈍く光るものが見える。  ───がちん!  一瞬ぎゅーっときつく首が絞まり、お花畑がちらっと見えた。が、次の瞬間、いきなり首が楽になった。 「……ぶはああっ!」  緩んだマフラーがほどかれ、急激に供給された酸素に激しく噎せる。なんか知らんが助かった。ゲホゲホ言いながら床を見ると、毛糸のマフラーがビチビチのたうっているではないか。 「ぎゃーっ!」  なにこれ、気持ち悪い!  他の客や従業員達も同意見だったらしく、さっさと逃げ出してしまった。杉田だけが険しい顔で床に膝をついている。見れば、メダル用のカップにマフラーを挟んで重ね、床に押さえつけているらしい。よくとっさにそんなことを思いついたもんだと感心した。  助けてもらっておいてなんだが、身体(?)の一部を挟まれてのたうち回るマフラーというシュールな図に全く動じてない友人が、ちょっとだけ怖いとも思った。
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