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勇ましい声に引き続いて、大勢の軍靴が踏み鳴らされるような、ざっざっざっという音が背後からした。嫌々振り返ると、茶色のフリースっぽいのが銃を構えた黒い布の大群を従えてふんぞり返ってい(るように見え)た。
「既にヴュロウド様の王位継承準備は整っております。あとはモウフル殿下の承認を待つばかり。“承認”は御本人の意思確認のみですから、御手間は取らせませんよ」
訊いてもないのに固有名詞出てきた。なんかもう思いっきり巻き込まれてんじゃん。
広げたバンダナみたいな布が自立してるだけでも大概シュールなのに、そんなのが三桁くらい押し寄せてゲーセンのフロアを満杯にしている。しかもその全部がSF映画に出てくるような銃をこっちに向けてて、マフラーに対して王位がどうたら言っている。もうその辺で俺のキャパ越えちゃってるんですけど。
「貴殿方の言う“承認”とは、殿下の存在の抹消と同義でしょう? そんな馬鹿な話を飲むとでも?」
完全なる多勢に無勢にも関わらず、紫は一歩も引いていない。いないのはいいのだが、大きさと位置からして俺たちの方が盾になってしまうのは明らかだった。
「まさか俺たちごと撃ってきたりしないだろうな!?」
「いや、あれは撃つ気満々だな」
だからなんでお前はそんなに冷静なんだよ!? 杉田は顎に手を当て、涼しい顔だ。
「嫌だ死にたくねえ!」
一日に二度も死にそうになる上に、原因はやっぱりマフラーとかあり得ないだろ!
「…中村」
「なんだよ!?」
「ちょっとここ頼む」
「は?」
杉田はいきなりマフラーを掴むと俺の首に巻いた。抵抗する気力もないのか、マフラー殿下はされるがままだ。
「いったい何を…!?」
紫が面食らったように叫ぶのに構わず、杉田は俺の予想を遥かに越えた行動に出た。紫を俺の制服のポケットに押し込むと、俺の背中を思い切り蹴飛ばしたのだ。
「うわああっ!?」
転がり出る俺に、ジャキッと銃口が向けられる。
「…嘘だろ…」
その隙に、杉田は一人で逃げていった。
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