マフラー大戦

6/7

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 目の前にはズラリと並んだ銃口。百や二百じゃきかない数のそれが、全部俺に向けられていた。俺は全身全霊からのホールドアップで無抵抗を示し、力の限り叫んだ。 「助けてえええぇェぇええええ!!!」  首のマフラーは観念したのか動かない。ポケットの中では紫がモゾモゾ暴れていたが、這い出ることはできないようだ。 「“承認”は得られました。そこの異星人には悪いですが、運がなかったと諦めていただきましょう」  フリースに地球流の降伏は通じなかったようだ。 「嫌だあ、諦めたくないいい」  半泣きで頭を抱え、うずくまったそのとき…───  ジリリリリリリリ‼  突然の警鐘に、その場にいた全員がはっと身構えた。間髪入れず、豪雨が襲う。いや待て、ここは室内だぞ。見上げると、スプリンクラーが作動していた。 「うわあああああっ」  悲鳴に視線を戻すと、銃口がすべて下げられていた。と言うか、濡れた布兵士たちは全員床にへばりついている。水に弱すぎる軍隊だった。 「うう、冷てえ」  真冬の冷水シャワーに、震えながら身を起こす。室内の集中豪雨は敵兵を完全に鎮圧して止んだ。踏んだり蹴ったりだったが、どうやら助かったようだ。 「…つうか、マフラー王子は平気なのか?」  さっきからずっと、やけに静かだ。まるでただのマフラーみたいにピクリともしない。 「え…おい、まさか」  濡れたら死ぬとか、そんなんじゃねえだろうな!  慌ててマフラーを首から外し、強く揺すってみる。 「しっかりしろ! おい!」 「しっかりするのはお前だ」  不意に後ろから、逃げたはずの杉田が現れた。ほぼ同時にポケットから紫が顔(?)を出す。 「殿下!」 「は?」  紫は杉田の方を見て呼んだ。と言うことは…。見れば、杉田の巻いているマフラーが、手を振るようにはためいていた。  
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加