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目の前にはズラリと並んだ銃口。百や二百じゃきかない数のそれが、全部俺に向けられていた。俺は全身全霊からのホールドアップで無抵抗を示し、力の限り叫んだ。
「助けてえええぇェぇええええ!!!」
首のマフラーは観念したのか動かない。ポケットの中では紫がモゾモゾ暴れていたが、這い出ることはできないようだ。
「“承認”は得られました。そこの異星人には悪いですが、運がなかったと諦めていただきましょう」
フリースに地球流の降伏は通じなかったようだ。
「嫌だあ、諦めたくないいい」
半泣きで頭を抱え、うずくまったそのとき…───
ジリリリリリリリ‼
突然の警鐘に、その場にいた全員がはっと身構えた。間髪入れず、豪雨が襲う。いや待て、ここは室内だぞ。見上げると、スプリンクラーが作動していた。
「うわあああああっ」
悲鳴に視線を戻すと、銃口がすべて下げられていた。と言うか、濡れた布兵士たちは全員床にへばりついている。水に弱すぎる軍隊だった。
「うう、冷てえ」
真冬の冷水シャワーに、震えながら身を起こす。室内の集中豪雨は敵兵を完全に鎮圧して止んだ。踏んだり蹴ったりだったが、どうやら助かったようだ。
「…つうか、マフラー王子は平気なのか?」
さっきからずっと、やけに静かだ。まるでただのマフラーみたいにピクリともしない。
「え…おい、まさか」
濡れたら死ぬとか、そんなんじゃねえだろうな!
慌ててマフラーを首から外し、強く揺すってみる。
「しっかりしろ! おい!」
「しっかりするのはお前だ」
不意に後ろから、逃げたはずの杉田が現れた。ほぼ同時にポケットから紫が顔(?)を出す。
「殿下!」
「は?」
紫は杉田の方を見て呼んだ。と言うことは…。見れば、杉田の巻いているマフラーが、手を振るようにはためいていた。
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